実現しなかった「すきやばし次郎」でのディナー

 ゴーンの情報を入力する男性の手が止まった。そして「問題があるようです」とゴーンに告げると、パスポートを持って後方の部屋に消えてしまった。日産に来て20年近く、ゴーンは何百回と日本に入国してきたが、問題が発生したのはこれが初めてだ。

 男性が戻ってきて、ゴーンに別室までついてきてほしいと言った。その部屋にはもう1人男性がいたが、特に紹介はされなかった。入国審査官が書類の記入を終えると正体不明の男が立ち上がり、ゴーンに告げた。「関善貴といいます。東京地検から来ました。ご同行願えますか」

 関は、ゴーンの拘束理由を説明することを拒否し、ゴーンがスマートフォンを使うことも禁じた。ゴーンは日産の、とりわけ川口均に電話をかけたかった。川口は政府担当の責任者なので、どんな問題でも解決する適任者を呼んでくれるだろう。

 ゴーンはさらに、娘のマヤに電話をかけさせてくれと頼んだ。彼女は東京のゴーンのマンションで待っていた。新しいボーイフレンドをゴーンに紹介するために東京に来ているのだ。3人は伝説の寿司店〈すきやばし次郎〉で19時からディナーを予定していた。しかし、関はそれも許さなかった。

 ゴーンは検察の一団に囲まれながら空港を出て、待機していた車に乗せられた。

 そのころ成田空港では、太陽が沈むなか、ケリーの飛行機が滑走路に降り立った。ケリーは一睡もできないフライトで疲れきっていたので、プライベートジェットのおかげで入国審査の列に並ばずにすむことが嬉しかった。