壁の議論を国民は理解できているだろうか
ざっくり挙げるだけでも、100万円(93万円)の壁、103万円の壁、106万円の壁、130万円の壁、150万円の壁、201万円の壁がある。
どうだろう。具体的に説明できるだろうか。
所得税の議論と、前述の社会保険料の議論、さらにざっくりした税への認識が就労調整を引き起こして93〜103万円あたりで「100万円の壁」になっているのではないかという指摘もなされている。
◎近藤絢子「「年収の壁」問題の視点 「103万円の壁」過剰に意識」
100万円(93万円)の壁は給与所得者の住民税所得割(所得比例部分)の発生(93万円は住民税の所得に比例しない均等割の原則的な非課税基準)、103万円の壁は給与所得者の所得税の最低税率(5%)発生額であり、また特定扶養親族控除の上限額、基礎控除と給与所得控除のボトムを足し合わせた金額でもある(控除額は収入や所得、その他の条件等によっても異なる)。
106万円の壁は一定の条件を満たす短時間労働者が社会保険に加入する義務が発生する「壁」で、130万円の壁は社会保険料の被扶養者認定の対象から外れ支払いが必要になることに由来する。150万円の壁は所得税の配偶者特別控除の減額開始の額であり、201万円の壁は配偶者特別控除の適用外になってしまうことに由来する(ただしそもそも1000万円以上の本人所得がある場合には配偶者特別控除は適用されない)。
特定扶養親族控除は150万円まで引き上げられることになったが、そもそも大学生や短大生など19歳以上23歳未満の特定扶養親族がいない世帯や子どもが小さい世帯、単身世帯などには影響しないのだ。
◎特定扶養控除 政府・与党、150万円に引き上げへ 25年開始検討 | 毎日新聞
単身で働くような同年齢の人にも必ずしも直接関係しない。見方によっては、同世代のなかで学生(がいる世帯)だけが優遇されているともいえる。こうした論点は十分に議論されただろうか。
いま、宙吊り国会のなかで、議論されている「壁」の議論は、このように多くの人たちの、来年の働き方や生活に直結する議論が行われている。それがもしそれぞれの政党の党利党略だけで決まっていくようなら問題だし、我々は批判の声を挙げるべきだし、来年は少なくとも参院選が控える年である。投票を通じて、意見を表明するべきだ。
しかしそもそもこれだけ国民生活にとっても、政局にとっても重要であるにもかかわらず、実際には何が問題なのか国民がおよそ理解できていないとしたらあまりに滑稽だ。
「壁」「四公六民」といった比喩の多用は、わかりやすさへの配慮に見せかけて、政策の理解を阻害していることを懸念する。