大使職をカネで買う悪習は健在

 トランプ氏は根っからのエリート官僚嫌い。国務省や国防総省の官僚の言うことには耳を貸そうとしない。

 それが大使人事に顕著に表れている。

 日本や他の先進諸国では、大使人事は事務方トップの外務事務次官がその人物の実績、人品骨柄を査定し、指名、外務大臣が承認の判を捺す。

 だが、米国では、大統領自らが大統領選挙の際の貢献度や大統領就任式にかかる費用提供などで大使を指名する習慣が出来上がっている。

 これについては批判が多い。あまりにも不適切な人間が大使として赴任して外交問題になったこともあるからだが、直らない。

グラス氏は外交音痴だが反中国の急先鋒

 トランプ氏は駐日米大使にグラス氏を指名すると発表した。グラス氏はトランプ第1期政権で駐ポルトガル大使に指名された民間人だ。

 オレゴン州出身で、オレゴン大学経済学部卒。1990年、30歳の時に、テクノロジー関連の投資銀行をおこし、抜群の経営能力を発揮した。

 2014年同社を「キイバンク」に売却、同時に不動産開発管理会社MGGを設立した。同社は大規模なアパート、賃貸家屋の管理会社だ。

 その傍ら、各種選挙の際には共和党候補への政治献金を積極的に行ってきた。

 米連邦選挙委員会(FEC)の資料によると、同氏は2016年大統領選に向けた2010年以降、トランプ氏の政治団体に7万7500ドル(約1190万円)16年の就任式関連イベント費用として2万2500ドル(約345万円)を献金している。

Trump taps Oregon businessman to be ambassador to Portugal

 締めて10万ドルの献金ということになる。これを受けてトランプ氏は同氏をポルトガル大使に指名した。

 外交はずぶの素人だったグラス氏は、リスボンに着任と同時に反中キャンペーンを開始。

 ポルトガルのエネルギー分野に進出を図ろうとした中国通信機大手メーカー「ファーウェイ」(華為)を攻撃した。

 ポルトガル政府に対し、「友人をとるのか、敵をとるのか。生じた結果に米国は責任を取らない。ことの次第では天然ガスの輸出を停止する」とまで脅迫した。

 ポルトガル政府は「内政干渉だ」と反発したが、結局中国との交渉を打ち切った。

 グラス氏の「閣僚級の働き」にマイク・ポンペオ国務長官(当時)は、ノン・キャリア大使に贈られる「模範的外交活動賞」(Exemplary Diplomatic Service Ward)を授与している。

 同氏の反中活動はトランプ氏の目にも留まったようで、今回の駐日大使として東京から中国ににらみを利かせる人物を探していたトランプ氏のお眼鏡にかなったと言える。