中東のパワーバランスはどう変わる?

 シリア国内にはHTSのほかに、40を超える武装組織を統合した「シリア国民軍」や北東部を拠点とするクルド人勢力「シリア民主軍」など、有力勢力がひしめきあっているからだ。過激派組織「イスラム国(IS)」も依然として活動を続けている。

 アサド政権下で厳しい生活を強いられてきたシリア国民は歓喜の声を上げているが、新たな統治体制が見通せない中、彼らが望む平和な暮らしが実現できる保証はないと言わざるを得ない。  

 アサド政権の崩壊は中東地域のパワーバランスにも大きな影響を及ぼすことになる。

ロシアを訪問しプーチン大統領(右)と会談したアサド氏(左)=2021年(写真:ロイター/アフロ)

 痛手を被ったのはロシアとイランだ。

 ロシア軍は冷戦以来、シリアに駐留してきたが、2015年にアサド政権を支援するため内戦に介入した。ラタキア県のフメイミム空軍基地をテコに大規模な空爆を行い、戦況を一時、アサド政権有利に導いたが、その努力は水の泡となった。

 ロシア政府にとっての喫緊の課題は地中海沿岸のタルトゥース海軍基地に関する権益の維持だ。同基地はロシアにとって地中海で唯一の修理・補修拠点であり、ここを中継基地として民間軍事企業をアフリカに派遣している。このため、この拠点を失うことは、中東、アフリカ地域におけるロシアの影響力が著しく低下することを意味する。

 ロシアのメディアは「シリアの反体制派指導者はロシア軍基地と外交機関の安全を保証することに合意した」と報じている。だが、ロシアの軍事ブロガーは「基地周辺の状況は極めて緊迫化しており、安全がいつまで保証されるか不明だ」と主張している。

 今のロシアにウクライナとの戦争に従事している兵力をシリアの海軍基地の確保に回す余裕はないだろう。

 ロシア以上に大きな打撃を受けたのはイランだ。