イランの核武装が現実味を帯びる
イランにとってアサド政権下のシリアは、中東地域におけるイスラエルと米国の影響力に対する「抵抗の枢軸」の一員として、極めて重要な同盟国だったからだ。最近ではヒズボラに軍事的支援を行うための補給路としての機能を果たしていた。
イラン側は早速シリア新指導部と接触を図っているようだが、アサド政権の時のように緊密な関係を構築するのは困難だ。
抵抗の枢軸が瓦解し始め、苦境に陥りつつあるイランを尻目に、仇敵のイスラエルは「イランにとどめを刺すチャンス」とばかりに攻勢を強めている。
通常兵器での戦闘では歯が立たないイランに残された選択肢は核兵器の開発だ。
国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は6日、ロイターのインタビューで「イランが高濃縮ウラン(濃縮度60%)の備蓄量を著しく増やす」と述べた。
IAEAはイランが保有する高濃縮ウランを90%に高めれば、核兵器4発分になるとしている。
イラン指導部は核兵器の開発に否定的だとされているが、その方針がいつまで続くか不透明な情勢となっているのだ。
イランが核兵器開発の動きに出れば、イスラエルのネタニヤフ首相がイランへの攻撃に踏み切ることは間違いないだろう。10月の報復攻撃では除外したものの、イランへの核関連施設への攻撃についてのイスラエル軍の準備が既に整っている。イスラエルがイラン経済の屋台骨である石油関連施設にも攻撃する可能性も十分にある。
バイデン政権と同様、トランプ次期政権もイスラエルの暴走をコントロールできないだろう。イスラエルの度重なる攻撃に対し、イランが徹底抗戦すれば、中東地域全域を巻き込んだ大規模な戦争に発展してしまうのではないかとの不安が頭をよぎる。
アサド政権の崩壊は、原油輸入の中東依存度が世界一高い日本にとって最悪の事態を招いてしまうのかもしれない。
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藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。