英リバプールにあるエリナー・リグビー像(写真:ロイター/アフロ)英リバプールにあるエリナー・リグビー像(写真:ロイター/アフロ)

 社会的孤立や孤独感が問題になる中、多くの人が孤独を癒すための話し相手や心理カウンセラーの代替として生成AIを活用し始めている。だが、現状のChatGPTはそうしたユーザーの感情に対処できるように設計されておらず、逆効果になる可能性も指摘されている。いま何が問題になっているのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)

現代人の孤独とChatGPT

 現代人は孤独を感じている――。そんなフレーズはもう聞き飽きているかもしれないが、事実として、孤独感を抱く人は多いようだ。

 政府の内閣官房孤独・孤立対策担当室が発表している「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」の令和5年版(2024年3月発表)によると、「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか」という質問に対して、「しばしばある・常にある」もしくは「時々ある」と答えた割合は、合わせて19.6%となっている。

 これに「たまにある」と答えた割合(19.7%)を加えると、約4割の日本人が孤独を感じている、という結果が出ている。最近の傾向を見てもこの割合はほぼ一定であり、孤独感が身近な問題となっていることがわかる。

 いま孤独感を「問題」と言い切ってしまったが、こちらも事実として、それが心身への影響も発生させ得る要因であることが証明されている。

 たとえば、ある論文によれば、社会的孤立と孤独感は「死亡、心血管疾患、がん、認知症、うつ、主観的ウェルビーイングなどの広範なアウトカムとの関連」があることが報告されているそうだ。もちろん、具体的な症状が現れなかったとしても、単に孤独を感じることが耐えられないという方も多いだろう。

 そこで、さまざまな「孤独感を癒す方法」が模索されているわけだが、ChatGPTを始めとした生成AIもその一つだ。

 この連載でも過去に関連事例を取り上げているが、いまや多くの人々が、孤独を癒すための話し相手や心理カウンセラーの代替として生成AIを活用している。

 ある記事によれば、既にネット上では「私は今日、正式に(人間のカウンセラーによる)セラピーをやめました。ChatGPTを使うという最高の、そして無料の代替手段を見つけたので」と宣言する人や、自殺したいという気持ちについて、ChatGPTに相談したことを告白する人まで出ているそうだ。

 24時間365日、こちらの言葉に対して何らかの(多くの場合は適切な)反応を返してくれるChatGPTは、確かに孤独を感じた際の相手としてベストな存在と言えるかもしれない。しかし、さまざまな研究を通じて、「ChatGPTで孤独を癒すこと」の危険性が指摘されるようになっている。