4月2日のG20金融サミットに先立ち、中国人民銀行の周小川総裁が勝負に出た。ドルに代わる新準備通貨創設構想を打ち上げたのだ。サミット本番ではロシアも同様の構想を正式に提案したが、議題として取り上げることはなかった。
それにしても、中国が経済を「政治」問題と認識していることを象徴するようなエピソードではないか。
このコラムの目的は中国経済の将来を予測したり、共産党独裁の理不尽さを暴くことではない。私が描きたいのは中華人民共和国という「政経一体システム」の実像である。人口13億という不透明な巨大国家が存在する以上、我々はこの隣国で起きている緒事象の本質を冷徹に究める必要があると思うからだ。
国家主導インサイダー経済
私個人の中国との付き合いは長いようで短い。1972年の日中国交正常化に触発され、大学での第2外国語は中国語だった。外務省入省前には台湾で短期間勉強したこともある。しかし、本格的に中国の政治と経済を学び始めたのは今から十数年前、WTOサービス貿易の首席交渉官をしていた1990年代中頃からだ。
当時中国のWTO(世界貿易機関)加盟交渉は佳境に入り、ジュネーブで何度か中国側代表団とサービス貿易部分について交渉した。金融、電気通信、法律、流通、建設等中国の国内官庁が所管するサービスが主要議題である。当時中国側で英語を喋る交渉官は通訳を除けば一人もいなかった。「何だ、こんなものか」というのが偽らざる感想だった。
それから5年後の2000年秋、在中国大使館公使として北京に赴任した。そこには全く新しい中国経済があった。英語を喋るエコノミストが大勢いることも初めて知り、自分の無知を深く恥じた。同時に、この繁栄の裏側に「負の部分」があることも次第に分かってきた。
WTO加盟にもかかわらず、中国では経済活動すべてに人為的影が付きまとう。当局は経済を市場の「見えざる手」に任せるどころか、逆にこれに挑戦していた。中国でビジネスの長い日本人は口を揃えて「中国での商売には見えない壁がある」と言う。
規則は突然変更され、政治的コネのない商売は成り立たず、ルールは実に不透明。まるで13億人の「政商」がいるかのようだ。