市場が材料視している日米主要経済指標の「明るい兆し」は、額面通りには受け取ることができない。4つの指標について、筆者の見方をコメントしておきたい。

(1)日銀短観3月調査で、大企業・製造業の業況判断DI6月予測が上向きになった(11四半期ぶり)。

過去に上記DIが大幅悪化した局面を振り返ると、次回予測DIの上向き転換が、実績DIの改善にすぐに結び付いたわけではなかったことが分かる。不況が深まると、企業の回答は先行きの予測について、希望的観測の色彩を帯びやすい。

 第1次石油危機期後の景気後退局面では、短観1975年2月調査で実績▲56(次回予測▲55)となったが、5月調査は実績▲57(次回予測▲43)で、実績DIは更に悪化。8月調査で実績▲52(次回予測▲33)となるまでに、半年が必要だった。

 近年の景気後退ケースを見ると、実績DI が改善するまでの期間は、もっと長い。90年バブル崩壊後では、92年5月調査で予測DI が上向いたものの、同年8・11月調査、93年2 月調査と実績DIの悪化が続き、93年5月調査になってようやく改善。この間に1年が経過していた。消費税ショック後の局面では、98年6月調査で予測DI が上向いたものの、同年9・12月調査で実績DIの悪化が続き、99年3月調査になってようやく改善。3四半期かかった。また、ITバブル崩壊後の局面では、2001年6月調査で予測DIが上向いたものの、同年9・12月調査では実績DIの悪化が続き、2002年3月調査で実績DIが前回調査比横ばいの▲38となって下げ止まり。同年6月調査で上向いた。上向くまでには1年かかった。

(2)2月の鉱工業生産速報で、製造工業生産予測指数が3・4月ともに前月比プラスになった。

しかし、実績が予測指数から下振れる現象が恒常化しており、予測指数のプラスを額面通りには受け取りにくい。生産に先行する在庫率指数は、2月分でさらに上昇して過去最高を更新。裾野の広い輸送機械工業を見ると、実現率・予測修正率がともにマイナスにとどまっている。生産統計は少なくとも2月時点ではまだ、重要部分が弱いままである(「生産底入れ、点灯せず」参照)。

 在庫率上昇の背景として、出荷の落ち込みが続いていることもまた、重要なチェックポイント。需要の持続的な回復が見られる場合には、出荷の伸び率は安定的に高まってくるはず。しかし2月速報で示された結果は全く異なっており、出荷の前月比は▲6.8%で、5カ月連続の減少。前年同月比は▲36.8%という大きな落ち込み幅である。貿易統計の輸出にも、下げ止まり感はまだない。

(3)米3月の雇用統計で、非農業部門雇用者数の減少幅が市場予想の範囲内に収まったほか、2月分が下方修正されなかった。

2月分に下方修正がかからなかった代わりに、1月分が大幅下方修正されて▲74万1000人になった(「米雇用悪化と株高の矛盾」参照)。また、2月分については、次回4月分発表時に数字が修正される可能性が残っている。