3日に米労働省が発表した米3月の雇用統計は、米国の個人消費にとって追加的な重石になっている雇用情勢悪化の深刻さを再認識する機会になった。

 失業率は前月比0.4ポイント上昇して8.5%。これは1983年11月以来の高水準である。失業者数は約1316万人に増加した。失業率は昨年12月以降、毎月0.4~0.5ポイントずつの急上昇で、水準を一気に切り上げている。遅行指標としての失業率の性質を考えると、今後9%を通過点にして上昇を続け、10%に迫る公算が大きい。

 非農業部門雇用者数の前月比増減は、3月は▲66万3000人。1月分が大幅下方修正されて▲74万1000人という数字になった。これは49年10月(▲83万4000人)以来の大きなマイナス幅。月々の振れを均してトレンドを見るため、後方6カ月移動平均を取ると、昨年12月分から今回3月分まで▲30万人台から▲60万人台へと、毎月大台が切り上がってきたことが分かる。雇用者数が減ったのは15カ月連続で、この間の減少者数累計は513万人に達した。

 主なカテゴリー別の雇用者数減少幅は、以下の通り。

A.財製造部門 ▲30万5000人(前月▲28万5000人)
うち建設業 ▲12万6000人(前月▲10万7000人)
製造業 ▲16万1000人(前月▲16万9000人)

B.サービス部門 ▲35万8000人(前月▲36万6000人)
うち小売業 ▲4万8000人(前月▲5万1000人)
金融業 ▲4万3000人(前月▲4万4000人)
政府 ▲5000人(前月+3000人)

 週平均労働時間は、全体では33.2時間(前月比▲0.1時間。過去最低水準を更新)。うち製造業は39.3時間(前月比▲0.2時間)で、超過勤務は2.7時間(同横ばい)となった。

 時間当たり賃金は前月比+0.2%、前年同月比+3.4%。前年同月比は3カ月連続でプラス幅を縮小した。

 3月分雇用統計よりも早く2日に発表されたが、雇用情勢を示すデータとしては雇用統計よりも新しい3月28日までの週の新規失業保険申請件数は、66万9000件(前週比+1万2000件)で、82年10月以来の高水準になった。4週移動平均は65万6750件に水準を切り上げている。また、失業保険の総受給者数は3月21日までの週に572万8000人(前週比+16万1000人)に達し、過去最高を更新。受給者比率は4.3%となり、4週連続で上昇した。このほか、雇用情勢の先行指標であるモンスター雇用指数を見ても、悪化トレンドは継続している。

 雇用統計発表後の米国市場は、株高・債券安・円安の展開。時価会計緩和が金融機関収益を持ち上げることへの期待感などから、ニューヨークダウ工業株30種平均は8000ドルの大台を回復。株高に加え、国債入札を控えた警戒感から、債券相場は下落。為替市場では株高を背景にリスク投資が復活することへの期待感から、全般に円売りが進行し、ドル/円相場は100円台を回復した。

 このように、株価上昇・リスクマネー復活の思惑を軸にして、様々な市場が動きを見せているわけだが、そうした動きが景気回復や金融システム安定化についてのしっかりした見通しに裏付けられたものであるとは、どうにも考え難い。思わぬ期初の調整に見舞われている国内の債券相場についても、景気・物価・金融政策の見通しが長期金利の上昇ではなく低下の方向を指し示していること、財政出動・国債増発について債券相場に最も不利なシナリオを織り込んでしまった後にはその反動が予期されることを十分認識した上で、冷静に対処していくことが肝要となる。

 雇用の悪化は、住宅およびクレジットのバブル崩壊を背景に、過剰部分のそぎ落とし過程にある米国の個人消費にとって、追加的な重石になり、景気回復時期を先送りさせる要因となる。内外の株価はこのところ反発の動きを強めているものの、経済の厳しい現実に直面して楽観論が頓挫するタイミングは、いつでも訪れ得ると、筆者はみている。長期金利は低下余地を探る流れに復することになるだろう。