マクロ経済学が常に勝つ
スイスのローザンヌにある国際経営開発研究所(IMD)のリチャード・ボールドウィンがピーターソン国際経済研究所に寄せた論考で思い出させてくれたように、基本的にはマクロ経済学が常に勝つ。
貿易収支とは、一国の総所得と総支出(あるいは貯蓄と投資)の差額だ。この関係が変わらない限り、貿易収支も変わらない。
米国は長い間、その所得よりも明らかに多い支出を行ってきた。そのことは外国から貯蓄がずっと供給されていることに示されている。
2021年第2四半期から2024年第2四半期にかけて、米国には平均で国内総生産(GDP)の3.9%に相当する貯蓄が外国から流れ込んだ。
従って国内部門は、全体としてそれと同額の赤字を出していたに違いない。
実際、家計部門の貯蓄・投資差額の対GDP比は平均2.3%の黒字で、企業部門のそれは同0.5%の黒字だった。つまり、赤字を出した国内部門は政府部門だけで、その規模は同6.7%に達していたということだ。
もし対外収支の赤字を縮小したいのであれば、国内部門がそれに合わせて逆方向に、すなわち貯蓄・投資差額を増やす方向に調整しなければならない。
当然ながら、最も大幅に調整されるのは巨額に上る政府部門の財政赤字だ。
ところが、著名エコノミストのオリビエ・ブランシャールがピーターソン国際経済研究所に寄せた別の論文で指摘しているように、トランプは2017年施行の減税の延長を公約している。
それに加え、社会保障給付や飲食店従業員のチップ収入を完全非課税にする、州税・地方税の税額控除を拡大する、2017年に35%から21%に引き下げた法人税率を製造業者についてはさらに15%に引き下げるといった減税案を提示している。
不法移民約1100万人を強制送還するとも述べている。
要するに、トランプは供給を縮小して需要を刺激する計画だ。これでは、貿易収支は改善するどころか悪化する。
おまけにインフレ圧力も生じるため、FRBはその抑制に取り組まねばならなくなる。
その一方で連邦政府の債務残高は爆発的な拡大を続け、米ドル自体への信認をも脅かしかねない。