新政権の政策が実際に招く結果
要約すると、トランプの提案する政策では、貿易赤字全体が縮小される可能性はゼロだ。
中国との貿易赤字を減らしても、ほかの国々との赤字が拡大するだけだ。マクロ経済学的な圧力が存在する以上、それは避けようがない。
さらに言うなら、関税率を中国に対しては60%、ほかの国々には10~20%にする差別的な貿易政策は、ほかの国々に広まっていくに違いない。
トランプとその取り巻きはいずれ、中国からの輸出品がほかの国からの輸出に切り替えられていくことに気づくだろう。
中国製品が米国に向かう途中で積み替えられたり、中国製品が第三国で組み立てられたり、ごまかしのない競争の結果ほかの国の製品が増えたりするということだ。
そうなれば、その対応策は官僚的な手続きが欠かせない「原産地ルール」を導入するか、輸入される製品すべてに60%の関税を課すかのいずれかになるだろう。
もちろん、外国からの報復もある。
このような高関税が米国と世界全体に広まっていけば、世界の貿易とGDPが急激に縮小する公算が大きい。
英国立経済社会研究所(NIESR)では、「累積的に言えば、米国の実質GDPは関税を導入しない場合に比べて最大で4%押し下げられる恐れがある」と予測している。
筆者の直観では、これでも楽観的すぎる。不確実性も広がっていくと思われるからだ。
しかしそれでも、米国の対外赤字は縮小しないかもしれない。
縮小するかどうかは、支出の減少幅が生産の減少幅より大きくなるか否かによって決まる。
だが、支出の減り幅の方が大きくなるということは、米国が深刻な景気後退に見舞われることも意味する。