中東では事態の悪化より沈静化の動きが優勢
トランプ氏の返り咲きで中東地域の地政学リスクも意識され始めているが、足元では沈静化の動きの方が優勢だ。
国際エネルギー機関(IEA)のグロッシ事務局長は20日、「イラン側が兵器級に近い濃度の濃縮ウランの貯蔵停止を無条件で誓約した」ことを明らかにした。イランの行動はトランプ氏に提示した和解の象徴だとみなされている。
イランからのシグナルを無視してトランプ次期政権が制裁を強化したとしても、イラン産原油の輸出先の約9割は中国だ。イランからの輸出量が大幅に減少したとしても、中国の原油需要は低迷しており、原油市場が混乱する可能性は低いだろう。
原油価格が反転する兆しが見えない中、OPECプラスの動向に注目が集まっている。
ロイター(11月20日付)は「OPECプラスが12月1日に開く閣僚級会合で有志国による自主減産(日量220万バレル)の縮小をさらに延期する可能性がある」と報じた。
原油価格を引き上げるためには大幅な減産が必要だが、アラブ首長国連邦(UAE)など一部の加盟国は増産する意向が強いため、合意を取り付けるのは極めて困難だ。自主減産の縮小延期の決定すら危ういかもしれない。
サウジアラビアが主導する形でOPECプラスはこれまで原油価格の下支えに取り組んできたが、堪忍袋の緒が切れるのは時間の問題なのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。