中国の軍人は命を失うかも知れない台湾侵攻を行いたくない。張又侠は軍を代表して習近平と妥協点について話し合ったはずだ。その妥協点がどこにあるのか、今のところよく分からないが、このところの習近平の顔色を見ていると、張又侠の主張は概ね聞き入れられたと思われる。

 長い間北京を留守にすれば寝首をかかれかねない。そんな張又侠が3日間もハノイに滞在できたのは、手打ちが終わったということなのであろう。今回のハノイ訪問は、手打ちが終わったことを人民解放軍に知らせることが目的だったと思われる。外交は内政の延長である。

張又侠はベトナムに何を伝えたのか

 ベトナムは中国と同様に過去に科挙を行った経験があり、軍と共産党の関係はよく似ている。だからこの辺りの機微が理解できる。そんなベトナムは手打ちが終わった制服組トップを国賓級としてもてなした。

 張又侠はベトナムが国賓級で迎え入れてくれたことに感謝した。そんな彼は軍と習近平の関係をベトナム側にやんわりと伝えたはずだ。

 その一方で、この時点では米国の次期大統領がトランプかハリスかは確定していなかったが、誰が大統領になってもベトナムが過度に米国に近づくことがないように釘を刺したと思われる。

 グエン・フー・チョン前書記長は習近平と同様に共産主義を信奉する心情を有していたが、トー・ラム現書記長は共産主義に思い入れがない。先にトー・ラムは国連においてベトナムが米国との関係を重視する旨の演説を行って中国の不興を買った。中国はその直後に西沙諸島で海監の艦船を使ってベトナムの漁船を攻撃し、多数の漁民を負傷させた。それによって中国の意思を示したのだが、張又侠は、再度、米国に接近しすぎないよう念を押したと思われる。我々の知らないところで、密かに歴史は動いている。