MALICE MIZER 中世ヨーロッパ世界を体現した究極のV系

 中世ヨーロッパをモチーフとした衣装とメイク、ストーリー性を持たせたシアトリカルなライブ演出など、徹底的な世界観構築によって、「究極のヴィジュアル系」「総合芸術集団」と称され、音楽以外の多くのメディアにも取り上げられるなど、社会現象にもなった。

 クラシック音楽を取り入れた音楽性が特徴的である。オーケストラとハードロックの親和性は多くのバンドが証明してきたが、MALICE MIZERはフーガ(対位法)を取り入れたり、弦楽器のほかにチェンバロやパイプオルガンを模したサウンドプロダクトを多く用い、バロック音楽や古典派の室内楽を想起させる、これまでのバンドにはなかったアプローチが多くある。

 特にバンドのイニシアチヴを握るギタリスト、Manaはギターシンセでバイオリンといった音色を模し、チョーキングといったロックギター然としたプレイを自ら禁じるなど、プレイヤー、コンポーザー両側面においても強いこだわりを持っていた。

 そして、メジャーデビュー時のボーカリスト、Gacktの艶のある歌声もその音楽性に大きく貢献している。彼の貴公子的でナルシズムなキャラクター性をそのまま表すかのような、豊かな中低音から高音へ抜けていくボーカルスタイルはヴィジュアル系シーンのボーカリスト、フロントマンとしてのスタイルを大きく決定づけた。

 日本歌謡と中世ヨーロッパイメージを完璧なまでに結びつけた「月下の夜想曲」、儚さと優しさを幻想的な色香で昇華した「au revoir」、そしてメロディアスな歌とさまざまな旋律が複雑な楽曲展開で緻密に構成される「ヴェル・エール 〜空白の瞬間の中で〜」の崇高で荘厳な響きは、シンフォニックなヴィジュアル系メタルのパイオニアというべきもの。

 さらにテクノポップにインダストリアルを掛け合わせ、バロック音楽で分解していくかの複雑さを持ち、ロックバンドでありながらギターとドラムが使用されていない怪曲「ILLUMINATI」など、アルバム『merveilles』は、これぞ“バラエティに富んだ”という言葉が似合う、広く深い音楽性と聴きごたえのあるサウンドを持った、ヴィジュアル系シーンにおける不朽の名作である。

DVD『MALICE MIZER: merveilles ~終焉と帰趨~ l'espace』より