ガーナでは、気候変動の影響でカカオの生産量は激減している(写真:ロイター/アフロ)ガーナでは、気候変動の影響でカカオの生産量が激減している(写真:ロイター/アフロ)

 EUは大企業に対して「森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化に関する規則」(EUDR)と呼ばれる規則を適用する予定だったが、現状では不可能な情勢だ。その最大の理由は、EUDRの強行によって食料品価格が高騰し、インフレ加速が再燃する恐れが大きいこと。環境規制を通してグローバルな影響力を行使するEUの戦略は岐路に立たされている。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会は規制を定め、それを域外に輸出し、グローバルな影響力を行使しようとする。域外の国や企業がこれを自主的に遵守するようになることは「ブリュッセル効果」と呼ばれ、近年では環境の分野で、欧州委員会はその効果が生じるように努めてきた。電気自動車(EV)シフトはその象徴的な事例だ。

 しかし、EU自身がEVシフトを後退させつつあることが端的に示すように、ブリュッセル効果の発動はこのところ上手く行っていない。11月には、再選したウルズラ・フォンデアライエン委員長の下、欧州委員会の新執行部が発足するが、その直前に現執行部が進めてきた規制の方針が、またも見直しを余儀なくされる事態となっている。

 欧州委は今年12月30日より、大企業に対して「森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化に関する規則」(EUDR)と呼ばれる規則を適用する予定だった。この規則は、パーム油やコーヒー、カカオなどやこれらの派生製品を域内で取り扱う事業者に対し、それらの産品が森林破壊を伴わず生産されたことの証明を義務付けるものだ。

 また欧州委は、EUDRを来年6月30日には中小企業にも適用する予定だった。しかしながら、EUの政策サイトであるユーラクティブが9月20日付で伝えたところによると、欧州議会の最大会派「欧州人民党グループ」(EPP)で農業政策の報道官を務めるハーバート・ドーフマン欧州議員は、EUDRの適用は現状では不可能との認識を示した。

 ドーフマン欧州議員によると、フォンデアライエン委員長もまたEUDRの適用は不可能であり、その延期と内容の見直しを進めるべきだと考えているようだ。

 それではいったいなぜ、EUDRは見直しを余儀なくされたのか。その最大の理由は、適用を強行した場合、EUで食料品価格が高騰し、インフレ加速が再燃する恐れが大きいことにある。