1000万人を超える単身世帯需要を掴め

河田:まずは、先ほどもお話しした通り、人手不足が構造的なインフレ圧力になる可能性があります。

 人口減少の局面においては、労働者(供給能力)が減少する一方、消費者(需要)も減りますから、単純にインフレになるとは言い切れないのですが、「単身世帯+FIRE」という層が増えると、供給能力が減り、リタイアした消費者だけが残ります。そうなると、需給は引き締まり、インフレになる可能性があります。 

FIREにより労働人口の減少は加速する(グラフ:河田氏執筆のレポートより)
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 企業活動においては、「おひとり様需要」をどれだけ取り込めるかが、企業の競争力を左右するかもしれません。単身世帯は、過去40年という長い時間軸で見ると、着実に増加しており、今後もそのトレンドは反転しそうにありません。

 例えば食品スーパーにおいても、大都市に住む単身者をターゲットとしたミニスーパーが増えてきました。ただ、現在のところ、商品政策(MD)は、ファミリー向けのスーパーと比較するとバラエティに乏しいし、ひとり用のサイズの商品も少ない。

 また、飲食チェーンでは「ひとり焼肉」などを打ち出す企業もありますが、どうしても品質・サービスともにローエンドに振ったものがメインです。

 今後は、所得+資産においては中流と言えるような人も、積極的に単身世帯を選んでいくようになっていきます。増えていく「中流の単身者」を捉えるためのMDをどう打つかも注目です。

──単身世帯が増加する前提として、結婚しないという選択をする若者が増えることがあります。

河田:私も未婚ですし、今のところは結婚するつもりはありません。後編でお話しするように、今は都内で「結婚して家庭を持つ」ことが経済的に非常に難しくなっています。さらに、これまで顕著だった「皆婚時代」が異様だったということも言えるのではないでしょうか。

 以前から潜在的には未婚を貫きたいと考えていた人もいたと思います。彼らは「家族との時間はプライスレス、と言われても…」という風に、結婚のメリットについて懐疑的だったのでしょうが、かつてはこうした人たちも半ば無理やり結婚させるシステム(社会の雰囲気)がありました。

 そうした仕組みが崩壊した今、未婚者が増えていることに不思議はありません。

>>【後編】東大卒30代エコノミスト「私がFIREしたい理由」…若者襲う徒労感、JTCで必死に働き結婚し家庭を持つのは無理ゲー