ドイツで行われた2つの地方選で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD、Alternative für Deutschland)」が躍進を見せました。AfDはこの10年ほどの間に各種選挙で勢力を伸ばしています。反移民や欧州連合(EU)からの離脱、気候変動対策批判など極右の政策を掲げる政党が 、第2次世界大戦でのファシズムの反省に立つドイツで伸長する現象は、国際的にも注目されています。ドイツでいま何が起きているのでしょうか。やさしく解説します。
(西村卓也:フリーランス記者、フロントラインプレス)
初の州議会第1党
AfDが躍進を見せたのはいずれも旧東ドイツ地域にあるチューリンゲン州とザクセン州で2024年9月1日に投票が行われた州議会選挙です。
チューリンゲン州では約33%の得票率を得て第1党の座を獲得しました。2位のキリスト教民主同盟(CDU)に9ポイントの差をつけての圧勝です。AfDが州議会選挙で第1党になるのは初めてのこと。ザクセン州では41%を獲得したCDUがトップでしたが、AfDはわずか1ポイント差で2位につけました。両州とも3位以下の党は大きく引き離されています。
10年前の2014年に両州で行われた議会選では10%前後だったAfDの得票率は、2019年には20%台半ばに、そして今回は30%を超すまでに急伸しているのです。
ドイツでは、得票率が5%に満たない党は議席を獲得できないルールがあります。このため、チューリンゲン州では緑の党が議席ゼロになるなど、既成政党の退潮が目立ちました。一方で今年結成されたばかりの極左政党(BSW)は両州でいずれも10%を超す支持を集めるという結果にもなりました。政治の現状に対する有権者の不満が現れたと言えるでしょう。
ドイツは連邦制をとっており、16ある州はそれぞれが“国家”として位置付けられています。各州は基本的に議院内閣制をとっており、議会が州のリーダーである首相を選任し、首相が組織した内閣を承認します。
今回選挙が行われた2州でも首相の選出が行われます。これまでチューリンゲン州では左派が少数与党を形成し、ザクセン州ではCDU出身の首相が連立政権を率いていました。今回の選挙でAfDは躍進したものの、単独過半数を占めたわけではありません。州首相の座を獲得するには他党との連立が必要ですが、連立を組む相手が見つからないため、政権に就くことはないと見られています。
ただし、憲法改正など3分の2の多数を必要とするような重要課題でAfDは事実上の“拒否権”を手にすることになりました。このため、両州の内閣にとっては、政策決定が難しくなることも予想されます。