文=松原孝臣 撮影=積紫乃
今年86歳で現役の「氷の職人」
「ファンタジー・オン・アイス」「Everlasting33」「氷艶」「プリンスアイスワールド」「THE ICE」……。春から夏にかけて、さまざまなアイスショーが行われた。
例えば「ファンタジー・オン・アイス」の幕張公演なら幕張メッセ、「氷艶」なら横浜アリーナというように、通常は氷が張られていない会場で実施された。つまりリンクを設営する作業が必要になるが、これらのショーに、いわゆる「氷の職人」として携わった人がいる。髙橋二男(ふたお)である。スケートリンクの設営や運営、管理などを手がける株式会社パティネレジャーの一員として従事している。
髙橋はもともと同社の社員として従事し、定年退職したが請われて復帰し、今日に至ったという。現在は86歳になる。
今は7月27・28日に行われる「THE ICE」の東京公演(LaLa arena TOKYO-BAY)の準備のため南船橋にいる。
「長期間、1回も家に帰っていないですね」
と笑う。
86歳である髙橋は、今なお全国を飛び回り、作業にあたっている。
「やっぱり好きじゃないと、続かない気はしますね」
穏やかに笑う。
つまりは好きな業務であることを表している。その作業はどのようなものなのか、リンク設営作業を確認しておきたい。
仮設スケートリンクをつくるには
フィギュアスケートを行うには、とにもかくにもスケートリンクが欠かせない。体育館やアリーナなどで行うのなら、フロアに一時的に氷を張って使用する。
氷を張る作業を行ったら、大会やアイスショーの期間中は氷の維持とメンテナンスに努め、終了すれば氷を溶かして元に戻す。
では、仮設リンクはどのように設営されるのか。
最初に、床に巨大な1枚の防水シー トを敷く。そこに断熱材を敷き、さらにコンパネ(合材)を敷く。これが「床」となる。
この上に、さらに防水シートを敷いて、冷却管を敷きつめていく。
冷却管の内部にはマイナス10度以下に冷やした不凍液を循環させる。その上から散水することで水が凍っていく。
散水は数日間かけて昼夜時間を問わずに進める。その手間によって氷の厚さが増していく。
この作業もまた、手間がかかる。数日かけて昼夜を問わず散水を行ない、厚みを増していく。その厚みは10センチまで行かない。あまり厚くしすぎれば、冷却管から遠くなり、冷えにくくなるからだ。
リンクにたくさん敷きつめられた冷却管は、設置した機械室につながり、そこで不凍液が冷やされ、パイプで冷却管とつながり循環させている。24時間管理を続けるという。
「いちばん心配しなければいけないのは、設営の場所はやっぱり体育館ということですよね。下が床ですから、水漏れというのは絶対できないんです。水漏れだけはしてはいけない、それがいちばんですね」
会場は観客の人数や空調の使用などで温度が変化し、それは氷にも影響する。以前はその加減に苦労はあったという。