結びに代えて

 既述したようにブロイヤー連邦軍総監は、ロシアがNATO加盟国を攻撃する可能性について、再三、危機感を表明している。

 他方、ドイツは国防政策を歴史的に大転換し、特別基金を設け、国防費のGDP(国内総生産)2%増を達成し、装備の近代化を進めるとともに、徴兵制の復活に向けた検討を開始した。

 そして、北大西洋条約第3条を根拠とするレジリエンスの強化のため、連邦軍以外の文官からなる機関や地域コミュニティとの連携を深め、継戦基盤の強化に努めている。

 ドイツ国内の動きから見れば、ドイツとして切迫した脅威への焦りを窺える。

 他方、秋の米大統領選でドナルド・トランプ氏が再選される可能性が喧伝される中、2024年2月、ドイツを含め、NATO加盟国の多くが国防費GDP2%以上の目標達成と公表したことは記憶に新しい。

 ブロイヤー連邦軍総監は今後、トランプ元大統領が再選されても、ドイツは欧州の安全保障において大きな責任を持つことは必至であるとしつつ、現在のドイツの取り組みはアメリカが従来どおり、NATOに関与していることが前提との認識を示している。

 今後のウクライナ戦争の帰趨は固より、米国の大統領選挙の行方からNATOはどのような方向に向かうのか、またドイツの安全保障に関する責任は変化していくのか、今後の安全保障情勢の行方を注視していく必要がある。