エンドユーザーのことを何も考えていない道路行政

 高速を長距離移動する人はほぼ、目的地付近まで一気通貫でドライブする。ひとえに長距離逓減制を切らさないことと、乗り降りするたびにターミナルチャージを払わなければならないためだ。

 海外でのドライブ経験にも照らし合わせてみると、これはクルマでの旅で得られるはずの楽しさの大半を捨てているも同然だ。

 山陽自動車道の宮島サービスエリアには世界遺産である厳島神社の鳥居を模した赤い鳥居が設置されている。高速を下りてちょっと走って渡し船に乗れば本物が見られるのに、こんなイミテーションで妥協するのは痛ましいの一言である。

宮島サービスエリアに設置されている厳島神社を模した鳥居

 宮島サービスエリアはほんの一例で、似たようなケースは全国の至るところにある。長距離移動組は時間があったとしてもほとんど高速から下りないので、雰囲気をちょっぴり仮想体験してもらおうということなのだが、これは本末転倒だ。

 一度でも高速が無料、ないしはチケット有効期間中乗り降り自由の国でドライブをすれば、ユーザーを高速道路に縛り付けるターミナルチャージと長距離逓減制がいかに旅の楽しみを阻害しているかが如実に分かる。実際、そういう体験をしている人も少なくないはずだ。

 日本でも高速道路の周遊企画があるにはあるが、わずか数日の有効期間のうちに長距離移動と現地周遊の両方をこなさなければならないようなものばかり。旅行プランを最初からガチガチに決めているというケース以外ではほとんど使い物にならない。

 長距離を連続して走ればサービスをしますよという今のやり方は日本のクルマのユーザーからクルマで自由に旅をする楽しさを金銭面のプレッシャーで奪っているも同然。その長距離逓減制をさらに拡大すれば、ユーザーは高速道路から下りることをますます嫌がるようになり、クルマでのドライブが単なる二点間の移動になってしまう。

 結局、国土交通省の旧建設族や高速道路会社は物流改革については机上の空論、対エンドユーザーについてはそれこそ何も考えていないと言って差し支えない。

 もはや確定的となった深夜割引の制度変更と、その補完を目的とした長距離逓減制の拡充。クルマは置物ではなく、使って初めて意味が出てくるもの。にもかかわらず、それを阻害するような道路行政ばかりを推進しているのだから、国の自動車マーケットが衰退するのも当たり前だ。

 実際にはありそうもないが、高速道路のスキームが良い方向に再変更されることを願うばかりである。

>>【図表】高速道路の深夜割引制度はこう変わる!

【井元康一郎(いもと・こういちろう)】
1967年鹿児島生まれ。立教大学卒業後、経済誌記者を経て独立。自然科学、宇宙航空、自動車、エネルギー、重工業、映画、楽器、音楽などの分野を取材するジャーナリスト。著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。