右から、ジャンヌの父であるジャック・ダルク像、ヴォークルールの教会 写真/神島真生(以下同)

 神の啓示を聞いた預言者でありながら、軍事指導者として戦いの前線にも立ち、若くしてその生涯を閉じたジャンヌ・ダルク。

 波乱の人生を送ったフランスの英雄の実像に、著書『戦国大変』が話題の歴史家・乃至政彦が日本史を介して迫る「ジャンヌ・ダルク聖者の行進」。

 WEBメディア「シンクロナス」で配信する連載(「歴史ノ部屋」内)の中から注目度の高かった「村娘の冒険」をお届けする。

(文・乃至政彦)

ジャンヌを止めようとした者

 ジャンヌが預言者として受け入れられるまで、彼女は三人の男性から、その決断を強引に取り消されそうになっている。

 一人目は父親であった。

 ジャンヌが家を出てヴォークルールに赴こうとしているまさにその時であろう。

 彼女自身の証言によれば、「まだ父母と一緒に住んでいた頃」、一五歳のジャンヌは父親から「ジャンヌが兵隊達と連れだって家を出てしまう夢を見た」ことを「何度も言われた」という。それ以降、父母の監視が強化され、兄弟たちからの監視を受けることになった。

 父親は、ジャンヌの兄弟たちに「儂がジャンヌのことで夢にみたようなことが起きるぐらいなら、あの娘を溺れさせてやりたい。お前達にできないなら儂自身でやってやる!」とまで訴えたという。半狂乱といっていい。

 だがジャンヌは、黙って旅立ってしまった。

 娘の出奔を知った父母は、「気を失うばかり」に絶望したという。