パリオリンピックの開会式で点火された聖火台(写真:共同通信社)
  • パリオリンピックの開幕直前に起きた高速鉄道の破壊工作をめぐり、犯人像や動機について様々憶測が飛び交っている。現地時間27日には、複数メディアに極左集団から関与をほのめかす不審なメールが届いた。
  • イスラエル外相は事件発生数時間後、イランとイスラム過激派が背後にいるとの憶測をSNSに投稿。仏在住のロシア人が21日に逮捕されていることなどから、ロシア関与説も広がっている。
  • いずれにしても、華々しいアスリートたちの活躍の影で、対テロ勢力との攻防が水面下で繰り広げられている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 7月26日、パリオリンピックの開会式が無事開催され、球体の幻想的な聖火台が、あいにくの雨の中、パリの夜空に浮かんで終了した。オリンピック史上初めて街を舞台に繰り広げられた開会式は、賛否もありながら一応は成功した形だ。

 ちなみに英ガーディアン紙はパリでの開会式にやや辛口の評価を加え「完璧に遂行された東京大会」に続くのはさぞかし困難だったであろうとして、パリ大会が3年前の開会式演出には及ばなかった、というニュアンスを含めている。

 1万人ほどの各国選手団がセーヌ川を大小さまざまなボートでパレードしたり、聖火リレーのランナーが一部観衆と近いところを走ったりするなど、警備体制は五輪スタジアムという限られた空間よりも数倍困難だったはずだ。そうしたなかでの開会式の成功は、賞賛に値するだろう。

 パリ大会が「狙われた大会」であることは、開催前から懸念されていた。そして、厳戒態勢にもかかわらず、その懸念は開会式当日の早朝に現実のものとなった。パリ市内の鉄道網の中枢を狙った破壊攻撃により、オリンピック会場に向かおうとしていた人たちや、夏季休暇のため移動しようとしていた人たちなど、およそ80万人もの人たちに影響を及ぼした。

厳戒態勢のパリ中心部=7月26日撮影(写真:共同通信社)

 この攻撃では、パリと北部のリール、西部のボルドー、東部ストラスブールなどを結ぶ路線で放火と見られる火災などが発生し、線路沿いの信号設備が破壊された。捜査の早い段階で鉄道網を熟知した者の関与が疑われた。

 様々な犯人像が取り沙汰される中、現地時間27日には自らを「正体不明の代表団」と名乗り、極左集団であるとする団体が複数の地元や海外メディアに、事件の関与をほのめかす不審なメールを送りつけている。

 仏日刊紙のプロヴァンスはこのメールに「(オリンピックを)パーティと呼ぶのか?我々はこれを国家主義の祭典、国家による国民の抑圧という巨大な演出と見ている」と記されていたと報じた。同紙はまた、このメールの信憑性は現状未確認だとも伝えている。捜査当局が、このメールの検証に当たっているという。

 仏アタル首相は攻撃当日、犯人像や動機こそ口にはしなかったが、早々にこの攻撃が「計画的」かつ「計算されたもの」として、場当たり的な放火ではないことを強調している。

 報道によると、唯一破壊工作を阻止した仏中北部ヴェルジニーでは26日午前1時過ぎ、フランス国鉄の保守作業員らが異変に気付いたという。保守作業にあたっていた作業員らは、自分たちよりも少し先の線路沿いに不審な集団を目撃。夜半でもあり、この人物らが何をしているのかを確認しようと近づいたところ逃走したため、地元警察に通報したのだという。

 この目撃情報および、事件現場に残された発火装置の残骸などが、今後の捜査の重大な手がかりとなり得るだろう。報道によれば、攻撃の手口は極めて粗雑なものだったというが、国内外に通じる主要鉄道網の麻痺と混乱を招き、甚大な被害を及ぼすには十分であった。

 今大会では人工知能(AI)を駆使した厳しい警備体制が敷かれているというが、鉄道網のケーブル放火という単純な攻撃には、警備の盲点を突かれた感も否めない。