イスラエルのガザ攻撃やロシアのウクライナ侵攻が続くなか、“平和の祭典”の五輪開催が近づいている(写真:AP/アフロ)
  • パリ五輪の開幕が近づくなか、ハマス・イスラエル紛争がスポーツの祭典にも暗い影を落としている。
  • ガザ地区ではアスリートなどスポーツ関係者およそ400人が死傷したとされる。ガザへの激しい攻撃を続けるイスラエルに対しては五輪への参加をやめるよう求める声もある。
  • 国際オリンピック委員会(IOC)には、ウクライナに侵攻したロシアと比較し、イスラエルの参加資格に制限を加えない対応が「ダブルスタンダード」であるとの批判も一部で出ている。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 今年1月、パレスチナ・ガザ地区へのイスラエル軍の激しい空爆で命を落とした、1人の女性がいた。ナガム・アブ・サムラさん(享年24)だ。彼女は昨年12月、自宅があった難民キャンプでイスラエル軍から攻撃を受け、頭と足に重傷を負い昏睡状態に陥っていた。ナガムさんはパレスチナ屈指の女性空手家で、2019年にパレスチナのチャンピオンに輝いていた*1

*1Nagham Abu Samra: Palestine karate champion, victim of Israel’s war on Gaza(Al Jazeera)

 報道によればナガムさんは生前、「空手からは個人としての力、そして意志の強さを学んだ」と語っていた。スポーツ教育の修士号を取得し、女の子たちが空手を学べるクラブも創設していた。男性上位の社会にあって、空手家として活動することで女性蔑視も経験した。それでも挫けることなく前進を続けていた。「明日が今日より光り輝く希望」を象徴するとして、真っ白い空手着を愛した。

 ナガムさんは間もなく開幕するパリ五輪にて、パレスチナ代表の空手選手として参加するはずだった。晴れがましい国際舞台に立つという夢は、イスラエル軍による無慈悲な攻撃によって、パレスチナの空手チャンピオンとして君臨したその右足と共に、もぎ取られた。

 パレスチナのオリンピック委員会によると、昨秋来、ハマス掃討という名目のもとイスラエルが行ってきたガザ地区への攻撃により、7月14日までにアスリートやコーチ、スポーツ関連の人員などおよそ400人が死傷したという。

 今年、パリ五輪には、水泳、テコンドー、柔道など8人のパレスチナ人アスリートが出場する。パレスチナ自治政府の外相は、この8人が単なるアスリートではなく「パレスチナ人の抵抗の象徴でもある」と述べている。

 パレスチナが初めて五輪の舞台を踏んだのは1996年のアトランタ大会で、今年は8度目の参加となる。初の五輪選手となった長距離ランナーの男性は、イスラエル軍による攻撃で適切な処置が受けられず、今年6月、腎不全で亡くなっている。

 2007年からイスラエルによる厳しい封鎖が続くガザ地区で、スポーツは人々の心の拠り所となってきた。特にサッカー人気は根強く、パレスチナは今年1月、アジア杯において初勝利し、決勝トーナメントにも進出。6月には、初めてW杯予選3回戦への出場権も獲得した。

 しかし、イスラエルによる攻撃で多数のサッカー選手が犠牲になり、また複数のスタジアムも瓦礫の山と化している。