勤続20年で年金がもらえる米軍

 組織のあるべき姿として、「諸外国をヒントにしてほしい」と話す元自衛官らも少なくない。たとえば米軍では、大尉までは定期昇任できる一方、少佐以上では厳しい選抜試験が待っている。昇任していくためには、普段の勤務態度や体力、学位の有無などが厳しく審査され、審査に落ちたものは退官していく。その結果、優秀な人材が軍に残り、組織の若さも保たれる。軍を辞してから起業する者も多く、元軍人の起業をサポートする団体もある。

 また、年金制度にも違いがある。米軍では20年以上勤務すれば退役直後から支給される独自の年金制度が設けられている。20歳で入隊したならば、40歳の時点ですでに年金が受給できるというわけだ。そもそもアメリカでは退役軍人に関して「退役軍人省」という一つの省が設置されていたり、「退役軍人の日」が制定されていたりと、退役した軍人に対する社会の見方からして日本とは異なる。

 自衛隊の人事制度では、士長(この階級までは終身雇用ではない任期制隊員)から3曹へと昇任する際に試験があるだけで、曹以上になってしまえば定年まで自衛隊にいることができる。幹部の中には優秀な人材も多いが、昨今自衛隊で問題になっているのは、その優秀な人材が中途で退職し、民間企業へ流出してしまっていることだ。筆者の知り合いにも、大手コンサルファームやGAFAに勤めている元幹部自衛官が複数いる。結果として国防の志ゆえに自衛隊に残るのではなく、「俺はほかに何にもできないから、自衛隊にいるしかない」と自衛隊にしがみつくような幹部も出てくる。

 定年までいられることは、雇用の安定という面からはよいだろう。一方で、組織の精強性や自分自身を高めていく意欲といった観点から見ると、どうしても米軍に劣る。ある元自衛官は、「年齢が上がれば上がるほど再就職は難しくなる。米軍を参考に30~40代で一部が民間企業に出ていく制度としたほうが、結果として再就職で困難に直面する人も減るのではないか」と話す。

「社会」と「自衛隊」の観点から見たときには、「イスラエル軍のあり方が参考になる」と話す元自衛官もいた。ガザ侵攻で批判を浴びるイスラエル軍だが、軍民の間のエコシステムという面では、国際的に高く評価されている。イスラエル軍は、職業軍人と徴収兵、正規予備役で構成されており、18歳になれば一部の宗教の信徒を除いて徴兵され、男性32カ月、女性2年間の兵役が課せられる。そして除隊後も、40歳までは有事が起これば徴兵されることになっている。

 イスラエル軍は、非常に“ハイテク化”が進んだ軍隊だ。そんなイスラエル軍では、高校を卒業したばかりの若者の中から優秀な人材を選抜し、非常に高度なサイバー教育を施す。結果、そのような人材は軍に所属していた実績が評価され、除隊後には一流企業に勤めることができる。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
桜宮高校バスケ部体罰自殺事件を問い直す(上):真面目な子供を死に追いやる「部活」の異常さ
「東京ブラックホール」論は本当に正しいのか 出生率をめぐる数字のカラクリ
プーチンが金正恩に贈った高級車には「大量の韓国製部品」