地獄絵図戦略で中国の台湾侵攻に対抗
筆者は、2024年6月16日付の本欄に「中国の台湾侵攻を「地獄絵図」化する米インド太平洋軍の非対称戦略」のテーマで一文を提示した。
それは、「地獄絵図」戦略(「ヘルスケープ(Hellscape)」戦略)と呼ばれるものである。
米国防省の「レプリケーター(Replicator)」構想に基づき、米インド太平洋軍(INDOPACOM)のサミュエル・パパロ司令官(海軍大将)が明らかにしたもので、その目的を次のように説明している。
中国軍が台湾海峡を渡ろうとした瞬間に、無人の水上艦艇、空中ドローンおよび潜水艦など数千基/隻を台湾の全周に張り巡らし、事実上の第一防衛線戦力として機能させ、致命的なドローン攻撃によって中国軍を「悲惨な」状態に陥らせる。
すなわち、中国が台湾に侵攻した場合、米軍が数千の無人機や無人艇などを配備し、対艦ミサイルや潜水艦などの活動と連携することで、台湾海峡に「無人の地獄絵図」を作り出すとの狙いから、「地獄絵図」戦略のタイトルが付けられている。
加えて、米政府は6月18日、台湾の防衛を支援するため小型の武装無人機計1000機以上を売却することを承認し、議会に通知した。
台湾は、中国との軍事力格差に対応する「非対称戦」で防衛力を高めようとしており、米国の「地獄絵図」戦略と歩調を合わせ、米国から無人機を導入するとともに、台湾での独自開発にも取り組んでいる。
INDOPACOMは過去5年から10年にわたり、多くの無人化能力について実験を行ってきた。
前任の同司令官ジョン・アクイリノ海軍大将は、 2023年8月にワシントンD.C.で開催された国防産業協会(NDIS)の防衛新興技術会議で、「地獄絵図」戦略について提起していた。
この過程で、本戦略に影響を与えた大きな出来事の一つは、ウクライナ戦争のうち、特に黒海での海戦がこれまでの戦いを一変させたことである。
米国がウクライナが行った作戦・戦闘からヒントを得て、そのモデルを台湾海峡に適用できないかと考えたのは至極当然の成り行きである。