NHK『虎に翼』番組HPより

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『虎に翼』の人気はとどまるところを知らない。

 観る側を惹き付ける理由は何か? ドラマの良し悪しを決めるのは「1に脚本、2に俳優、3に演出」というのが国内外の常識で、その3つとも出色だからにほかならない。とりわけ吉田恵理香氏による緻密で硬軟のバランスが採れた脚本は珠玉だ。

 憲法14条「法の下の平等」というテーマも一貫していてブレがない。表現方法も手垢にまみれたものではなく、個性的だ。その1つは「戦争の描き方」である。

戦火のわずかな描写で戦争の悲惨さを活写

 この物語はこれまでに戦前、戦中、戦後を描写しているが、戦場は登場せず、戦火も1945年3月の東京大空襲を第41回の冒頭約40秒間で描いたのみ。だが、戦争がいかに悲惨なもので、人々を苦しめたのかが、現代人にも伝わってくる。

 主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)の夫・優三(仲野大賀)が戦病死し、兄・猪爪直道(上川周作)が戦死したからだけではない。出征したものの生還した、弁護士で寅子の明律大法学部の同級生・轟太一(戸塚純貴)の態度にもそれは表れている。

 轟のもとへ召集令状が届いたのは1943年だった第38回。寅子との再会は6年後の1949年である。第57回だ。寅子は東京家庭裁判所の特例判事補と最高裁判所家庭局の仕事を兼務していていた。

 寅子がスリの少年を追って行ったところ、行き着いた先が轟とやはり同級生・山田よね(土居志央梨)の営む轟法律事務所だった。轟は寅子を見るなり、「佐田、生きてたのか……良かった! 本当に良かった!」と感極まる。寅子も泣きそうな顔で「轟さんも……」と応じた。

 直後、轟は同じく同級生で寅子の同僚である小橋浩之(名村辰)、稲垣雄二(松川尚瑠輝)とも対面する。轟は「なんだ、なんだ、きょうは同窓会か」と興奮した。稲垣は「生きてたのか!」と声を上げ、轟に抱きつく。2人は人目をはばからず大声を上げて泣いた。