次に女性もみてみましょう。
やはり色付きのマス目が多くなっており、同じ曲を2回以上歌っているケースが多いことがわかります。180人中、男性と同じく126人が該当し、比率にして70%が同じ曲を2回以上歌っています。男女ともに、特定の曲に対する思い入れを強く持っている人が多数いることが伝わってきます。
どんな曲が何回歌われている?
そこで気になるのが、「みんなどんな曲を、何回くらい歌っているのだろうか?」ということです。この実態を把握するため、今回の対象ユーザー群の、10歳刻みの各性別/年齢層ごとに、「最も繰り返し同じ曲を歌っている人」を抽出して、どんな楽曲を何回歌っているのかを視覚化してみたいと思います。まずは男性からです。
ご覧のように、どの年齢層から抽出した人も、同じ曲を2回……どころかもっと繰り返し歌っていることがわかります。左から3番目の30代男性の方は、accessさんの「瞳ノ翼」(2007年)を、1カ月間のカラオケで実に24回歌っているようです。
次に女性をみてみましょう。
これもまたどの年齢層の人も、思い思いの曲を繰り返し歌っていることがみてとれます。たとえば中央の40代女性の方は、2017年デビューの女性アイドルグループ、ナナランドさんの曲でアニメーション作品のエンディング曲にもなっている「七色の絵の具で」(2023年)を14回歌っています。
「アイドル」リリース直後に何度も歌う女性たち
また目を引くのは、10代女性、20代女性、30代女性の3人が、いずれもYOASOBIさんの「アイドル」(2023年)を複数回歌っている点です。今回の歌唱データの対象期間は2023年5月なので、同曲リリースの同年4月から1カ月ほどで、既に複数の年齢層で何度も歌われるような曲となっているということになります。そして同曲を5回歌っている30代女性の方は、一青窈さん「ハナミズキ」(2004年)も5回歌っています。1カ月前の曲でも19年前の曲でも、好きになった曲をよりうまく歌えるように、ひとりで何度も歌い込んで、高得点を目指したりしているのかもしれません。それぞれの生活者の、歌に対する思い入れの強さが感じられて、ちょっと胸が熱くなってしまいます。
「違う性別・年齢層で共通して歌われる曲の存在」に関する後編はこちら。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/81734
伊藤耕太
(いとうこうた) いとう・こうた 博報堂生活総合研究所 上席研究員。社会科学やプログラミング言語、データ可視化を用いて生活者研究に取り込む。2002年博報堂入社、国内外の企業や自治体のマーケティング/ブランド戦略の立案や未来洞察、イノベーション推進の支援に携わりながら、企業向けの研修講師や中高生向けキャリア教育プログラム講師を担当。2021年より現職。 ACCマーケティングエフェクティブネス部門メダリスト(2016年)。講師を務めた博報堂の中高生向けキャリア教育プログラム「H-CAMP」が2017年経済産業省キャリア教育アワードの最優秀賞・大賞を受賞。また論文『デジタリアンは縄文土器の夢を見る−生命情報からデータエスノグラフィーへ』で日本広告業協会懸賞論文2018年銀賞受賞(通算4度目の受賞)。2019年から同審査員。 関西大学 総合情報学部 非常勤講師(2008年〜)。慶應義塾大学大学院経営管理研究科MBAコース等でゲスト講師も務める。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・ドイツで多発する激甚水害、気候変動のコストは誰が負うべきか?
・6月会合で日本銀行が選択した円安抑制“プランB” は何を狙うか
・「沖縄戦」指揮官と遺族の往復書簡――「どうして、あんなに早く」夫を失った妻の慟哭