本を読むことで触れる他者の文脈

 1冊の本のなかにはさまざまな「文脈」が収められている。だとすれば、ある本を読んだことがきっかけで、好きな作家という文脈を見つけたり、好きなジャンルという新しい文脈を見つけるかもしれない。

 たった1冊の読書であっても、その本のなかには、作者が生きてきた文脈が詰まっている。

 本のなかには、私たちが欲望していることを知らない知が存在している。

 知は常に未知であり、私たちは「何を知りたいのか」を知らない。何を読みたいのか、私たちは分かっていない。何を欲望しているのか、私たちは分かっていないのだ。

 だからこそ本を読むと、他者の文脈に触れることができる。

 自分から遠く離れた文脈に触れること─それが読書なのである。

 そして、本が読めない状況とは、新しい文脈をつくる余裕がない、ということだ。自分から離れたところにある文脈を、ノイズだと思ってしまう。そのノイズを頭に入れる余裕がない。

なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(三宅香帆、集英社新書)
拡大画像表示

 自分に関係のあるものばかりを求めてしまう。それは、余裕のなさゆえである。だから私たちは、働いていると、本が読めない。

 仕事以外の文脈を、取り入れる余裕がなくなるからだ。