多くの人から信頼を得るには何が必要か
スコットランドの田舎町で手織工を営む家庭に生まれたカーネギー。時は産業革命の真っただ中、カーネギーの一家は蒸気機関を動力にした織り機の普及により収入を失ってしまう。
そこで両親は米国への移住を決意する。生活苦のため、カーネギーも13歳で学校を辞めて働き始めることに。最初の職場では週給1ドル20セントで、朝は暗いうちから夜は暗くなっても働き続けた。
しかしカーネギーの自伝には、苦労や努力といった記述がほぼ出てこない。それどころか人生で出会った人たちの名前をフルネームで挙げ、今の自分があるのはその人たちのおかげだと語る。
ここで出てくる人たちとは決して、大富豪になったきっかけをくれたような有力者とか、そんなものではない。学のない自分に本を貸してくれた、15歳の時の知人。週給を2ドルだけ増やしてくれた、16歳の時の上司。
さらには渡米する際にジュースを一杯おごってくれた船員の名前を挙げ、深い感謝を語っているという。しかもこの自伝を著したのは78歳のとき。子供の頃に受けた恩を一つひとつ覚えているのだから驚きである。
カーネギーは仕事上の危機に直面しても、失敗した時は自身が全責任を負う覚悟で対処し、成功すると周囲の人たちの手柄にして仕事に邁進した。やがて多くの人からの信頼を得て、トップリーダーに昇りつめたのだ。
「仕事の成果は部下や上司にくれてやる」が効率良い投資
ここで桃野氏が語る、本質的なリーダーの姿について紹介したい。桃野氏は「腕力自慢」で満足しているリーダーにこのように問いかける。
過去の仕事の成果など、部下や上司に気持ちよくくれてやることこそ2度美味しい、“投資”というものである。短期的で無意味な虚栄心を満たしたい欲求から逃れがたいことは本当によくわかるが、それは多くの場合、完全に逆効果になるのだから。
加えて、仕事とは多くの場合、ボクシングや空手などのような1対1の“天下一武道会”ではない。腕力自慢の経営トップ1人と社員10人の組織よりも、10人の優秀な社員を気持ちよく働かせることができる経営トップ1人の方が強いのが、組織力というものだ。