今回のブックレビューで紹介するのは『なぜこんな人が上司なのか』(桃野泰徳著、新潮新書)。そのタイトルを聞いて、思わずドキッとした人や、「あの人のことだ」と思った人はぜひ本書を手に取ってみてほしい。著者は編集ディレクターで国防ライターの桃野泰徳氏。大手証券会社を経て、メーカーのCFO(最高財務責任者)、TAM(事業再生担当者)を歴任した後に独立、リーダー論、組織論を中心に朝日新聞GLOBE+や経済誌などに執筆する。本書では桃野氏が経営再建の現場でこれまで直面した課題を取り上げ、あるべきリーダーシップ、ダメなリーダーシップを考察している。
(東野 望:フリーライター)
リーダーのあるべき姿とは
書店に足を運ぶと、売り場にはリーダーシップをテーマにしたビジネス書が多数並んでいる。それだけリーダーのあるべき姿とはどのようなものか、悩んでいる人が多いということだろう。
国を率いる政治家や大企業の社長といった立場だけでなく、小規模自治体や中小企業の一部門の責任者など、規模の大小を問わなければ無数の「リーダー」が存在する。本書はそんなリーダーたちに向けて、「私たちは、もう少しリーダーという存在について本気で考えるべきだ」という著者のメッセージが込められている。
管理職や要職にある人であっても、まともなリーダー教育を受けたことがある人などほぼ皆無だ。換言すれば、そもそもリーダーとはどういう存在か、リーダー自身がまともに考えたことすら無いのである。そんな経営者や管理職の下で仕事をしていれば、ストレスがたまらないほうがおかしいだろう。
桃野氏はここで陸上自衛隊の例を挙げる。数十人の部下を任される小隊長になるまでにはおおむね1年間、幹部候補生学校で教育を受ける必要があるという。この教育を修了する頃、候補生たちは部下全員にメシが行き渡ってから初めて箸を持ち、部下の誰よりも後に風呂に入る「リーダー像」が心と体に焼き付いているそうだ。
企業でも管理職に昇格すると、「管理者研修」のようなものを受けるケースが多い。だが、1年間かけて研修を受けるようなことはほぼ皆無だろう。付け焼き刃の教育では、やはり、こういったリーダーのあるべき姿について考えるのは難しいかもしれない。
人望を失うリーダーがやっていること
まともな教育を受けずに、「なんちゃってリーダー」のままでいると次第に人望を失ってしまうのはしかたないのかもしれない。
桃野氏は人望を失うリーダーがやっていることにも言及している。“理不尽なリーダー”として次のようなタイプを挙げている。
「部下の成果を自分の手柄にしてしまう上司」「このプロジェクトは俺が成功させたと吹聴するリーダー」現在進行形で、こういった上司や社長を冷めた目で見ている人は、きっと多いのではないだろうか。
桃野氏によると、こういうリーダーが優秀かどうかというと、例外なく優秀な人ではないと経験則から語っている。
一方で、こんなダメリーダーとは正反対の存在として名前を挙げているのが、アメリカの「鉄鋼王」として知られたアンドリュー・カーネギーだ。