よく「日本語は難しい」と言われるが、言葉にはどうしても曖昧さがついてまわる(写真:Kanizuki/Shutterstock.com

自分が発した言葉、あるいはSNSやLINEなどで文章にした言葉の意図がいまいち相手に伝わっていない。多くの人がこんな経験をしているだろう。「言葉」とはニュアンスや解釈の違いで全く逆の意味になることもあり、正確に意図を伝えるのが難しいものだ。『世にもあいまいなことばの秘密』(川添愛著、ちくまプリマー新書)では、ことばの曖昧さからくる解釈の齟齬を言語学の観点から解説している。

(東野 望:フリーライター)

「ご飯いる?」はお米を指すのか、食事を指すのか

 夕飯時、何気なく家族に聞いた「ご飯いる?」。こちらとしては「炊いたお米」を食べるかどうかを聞いたのに、「え? 今日外食するって言っていないよ」と返ってきた。これは「ご飯」に「炊いたお米」の意味と、単に「食事」としての2つの意味があるために起こったすれ違いだ。

 このように、1つの単語に全体を表す意味と部分や一部の概念を表す意味の両方を持たせることを「提喩(ていゆ、シネクドキ)」と言うらしい。

 言葉とは難しいもので、日々の会話でも気がつかないうちに誤解が生じているかもしれない。言語学者・作家の川添愛氏は近著『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマー新書)でこう言っている。

言葉のすれ違いを察知し、ある程度の対処ができるようになるには、言葉を「多面的に見る」ことが必要になってきます。その際に役立つのは、曖昧さがどういうときに起こるかについての知識です。曖昧さの要因が頭に入っていれば、「もしかしたら私の言葉は誤解を与えるかも」とか、「もしかしたら相手は、私が思っているのと違う意味でこう言っているのかも」などと考える余裕が出てきます。

世にもあいまいなことばの秘密』(川添愛著、ちくまプリマー新書)

 先の会話を例に取ると、「ご飯」に2つの意味があるためにすれ違いが起こる可能性があると認識していれば、「ご飯よそう?」や「お米食べる?」などのように誤解を生まない言い方ができるというわけだ。

「大丈夫です」は「OK」の意味にも「拒否」の意味にも

 考えてみるとほかにも同じような例はたくさんある。「お酒」が日本酒を指す一方でアルコール全般を意味することもある。「お茶をする」ときは緑茶以外にジュースを飲む場合もある。自分では自然と使い分けているつもりだが、相手に伝わっていないケースがあるかもしれないのだ。

 すれ違いは、提喩のように単語の解釈の相違だけで起こるとも限らない。たとえば誘いを断りたいがために「大丈夫です」と答えたら、相手に「承諾」と受け取られた経験はないだろうか。「大丈夫」は便利な言葉で、「OK」の意味にも使えるし「拒否」の意思を伝えることもできる。

「大丈夫です」などは、角を立てないよう曖昧に断りたいときや、やんわりとしたニュアンスを加えたいときに使いがちだが、どちらの意味で伝わるのかは受け取り手に委ねられるやっかいな言葉でもあるのだ。