朝ドラで甦るブギとブルース、二人の女王

『ブギウギ』に登場する芸能界のモデルといえば、主人公でブギの女王・笠置シヅ子、和製ブギと和製ブルースの父・作曲家の服部良一、そしてブルースの女王・淡谷のり子の三人がいますが、服部と淡谷が明治40年(1907)に生を受け(淡谷のほうがひと月半ほど先に誕生)、笠置は7年後の大正3年(1914)に生まれています。

 戦後、『東京ブギウギ』で大ブームを起こした笠置は比較的早く昭和32年(1957)に歌手廃業を宣言し、同60年(1985)に70歳で亡くなります。

 淡谷は「ものまね番組」の審査員やコメンテーターとして80代後半までブラウン管に登場していたこともあり、淡谷のほうが歌手として後輩のように思われる方がいるかもしれませんが、淡谷のほうが7歳年長でした。

 クラシックを基礎にしたファルセット唱法で腕を組み切々と静かに歌う淡谷、大阪松竹楽劇部出身で地声の早口で所狭しと踊りながら歌いまくる笠置、服部良一を間に挟んで実に対照的な二人ですが、長いまつげと意志の強さ、そして心根の優しさは共通していました。

 前述の菊地凛子がインタビューで、茨田りつ子役のことを「大木(たいぼく)」のような存在と表現し、「歌う姿に茨田りつ子という人の人生が見えてくる」と話していました。

 朝ドラでは『雨のブルース』も歌っていますが、あの難曲によくぞ挑戦したと思います。特にファルセットで歌う個所はかなり練習を積んだことが窺い知れます。

 若い頃の淡谷の写真と比べ、菊地のほうがスリムに見えますが、「歌うことは生きること。ほかに何があるの」と主人公に言い放つ台詞回しには、淡谷のり子を彷彿させる演技力がありました。