(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年1月3日付)
ワシントンやフランクフルト、ロンドンの木々が葉を出す頃までに2020年代のインフレ危機が完全に幕を下ろす見込みは十分にある。
台風の目はすでに過ぎ去り、ここ数カ月間の物価上昇率は中央銀行の目標以下にとどまっている。
例えば、昨年5月から11月までの半年間における消費者物価上昇率(年率換算)は、英国がわずか0.6%で、ユーロ圏が2.7%だった。
変動の大きいエネルギー・食品を除いたコアインフレ率(同)は、同じ半年間でともに2.4%だった。
米国では、これに相当する指標――米連邦準備理事会(FRB)が注目する個人消費支出(PCE)のデフレーター――はコア指数ベースでわずか1.9%で、総合指数ベースでも2%にすぎない。
従って中央銀行がインフレ率をそれぞれの目標に等しくするには、米国と英国では物価が制御できない事態を避けるだけでよく、ユーロ圏では物価を制御する能力を若干改善するだけでよいことになる。
だとすれば、勝利宣言は可能だ。
物価が落ち着いても残る高インフレの記憶
言うまでもないが、大西洋の両岸で2023年下半期に見られたインフレの急速な収束は、その前の急伸と同じくらい意外だった。
昨年夏にはFRBも欧州中央銀行(ECB)もイングランド銀行も、少なくとも2025年まではインフレ率が目標レンジを上回り続けると見込んでいた。
今後の見通しの改善は歓迎すべきことであり、目を見張るものだったが、物価が再び通常のペースで上昇し始めても、インフレ危機の余波は消えない。
今回の危機では、一般の人々がここ2年間の生活費上昇とわけの分からないゴタゴタを憎んでいたことがうかがえた。
そうした記憶が薄れるペースは恐らく、インフレの収束ペースよりも遅くなるだろう。
政治家は今後、インフレ率が下がっているのだから生活水準は向上しているんだと単に伝えるのではなく、多くの人々が払った犠牲について丁寧に説明していく必要がある。
2021年に事実上ゼロ%だった金利が経済活動を抑制する水準(ユーロ圏で4%、英国で5.25%、米国で5.25~5.5%)まで上昇した以上、2024年には金利をめぐる戦いも新たな局面に入る。
金融政策を引き締める必要はなくなった。
新年に問題になるのは、この引き締めた政策をいつ、どのように緩めていくかだ。