仕事・お金・健康・生きがいetc. 50歳を過ぎると、定年後の不安がどうしても頭をよぎります。原因は、じつは「脳の老化」からもきています。脳には“意欲”をつかさどる部位=「前頭葉」があり、40~50代頃から萎縮し、老化し始めます。そのため、意欲も衰えてしまうのです。意欲がなくなると不安の感情が増し、早期に認知症になってしまう危険性もあります。前頭葉が働くのは、経験したことがないことに向き合ったとき。いつも同じことをしていては、前頭葉はますます衰えてしまいます。では、定年後も心身の健康を保ちながら楽しく生き抜くためには何が必要なのでしょうか……。
(*)本稿は精神科医・高齢者医療専門医の和田秀樹氏の新著『50歳からの脳老化を防ぐ 脱マンネリ思考』(マガジンハウス新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
言葉を知ることで、アウトプットの能力がついてくる
大手企業で人事担当の役員まで務めて退職した70代の男性からこんな話を聞いたことがあります。
「ときどき『有望な社員です』という触れ込みで若い社員を紹介されることがあるけど、会って話してみるといつも『この程度なら昔はいくらでもいたな』と失望します。たしかに若手にしては話し方もしっかりして論理的だけど、昔ならごくふつうのレベルでしかないからです」
あらゆる世代で本を読む人が減ってきた結果、いまの日本人は文章を書くことや自分の意見や考えを話すことが苦手になったような気がします。メールやSNSは短い文章、ときには単語を並べておしまいです。若い人はとくにボキャブラリーの不足が深刻です。
比較的本を読んでいるはずの高校生でも大学生でも、小論文のような課題を苦手にする人が多いし、社会人になっても企画書や提案書のようなある程度の文章力を必要とする仕事は一部の人間に集中してしまいます。
本を読むというのは言葉と向き合う作業です。言葉を通してさまざまな世界を知ることになりますから、ボキャブラリーはもちろん、必然的に論理力とか表現力が備わってきますし、そこから文章力も育ってきます。
定年後の20年で何を勉強するにせよ、興味の対象が絞られてきて、同じ分野を勉強する仲間やグループができてくると、発表の場も自然に生まれてきます。コツコツと自分一人で勉強を続けていても、やはりそのテーマで学んだことをブログやnoteのようなWEBページで公開したくなります。インプットがある程度深められると今度はアウトプットしたくなってくるのは自然な流れです。
そこで必要になるのが文章力ですが、本を読む習慣が身についている人にはこの文章力も自然に備わってきますから、積極的に発表することができます。アウトプット作業こそ脳、とりわけ前頭葉を鍛えてくれますからいつまでも若々しい脳を保つことができるのです。
<著者紹介>
和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『年代別 医学的に正しい生き方』(講談社)、『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『80歳の壁』(幻冬舎)、『70代で死ぬ人、80代でも元気な人 』(マガジンハウス)などがある。