GXの概念がない時代から「緑化」を推進してきた森ビル
11月24日、東京都港区に「麻布台ヒルズ」が開業した。麻布台ヒルズは大手デベロッパーの森ビルが大規模再開発によって誕生させた街で、その区域面積は約8万1000m2、延床面積は約86万1700m2にも及ぶ。
森ビルは東京都心部に高層ビルを建てるデベロッパーというイメージが強い。そのイメージは決して間違っていないが、その一方で昔から緑化・公開空地・交通動線の整備に力を入れるデベロッパーでもある。
森ビルが推進してきた緑化は、2020年9月に発足した菅義偉内閣がカーボンニュートラルを打ち出したことで注目されるようになった。その延長線上の政策として、経済産業省が音頭を取る形で官民一体によるGX(グリーン・トランスフォーメーション)が推進されるようになった。
GXの定義は明確になっていないが、一般的に緑化・省エネ・再生可能エネルギーの導入などとされる。政府がGX推進へと舵を切ったことで、各業界のリーディングカンパニーはこぞって緑化や省エネへの取り組みを加速させるようになった。そして、それは都市構造にも大きな影響を及ぼしている。
政府が旗を振るカーボンニュートラルを実現するべく、デベロッパー各社は手探り状態でGXを進めている。しかし、森ビルはGXなどという概念がなかった1980年代から、自社の手がける大規模再開発で積極的に緑化を進めてきた。森ビルが積み重ねてきた緑化の取り組みは、すでに他社を寄せつけないレベルに達している。
そうした緑化の姿勢は、報道発表資料からも読み取れる。これまでに森ビルが手がけた六本木ヒルズ・虎ノ門ヒルズ・麻布台ヒルズの報道発表資料には、必ず緑化面積という項目が設けられている。
それらの資料によると、六本木ヒルズは約1万9000m2、虎ノ門ヒルズは2万1000m2、麻布台ヒルズは2万4000m2の緑化面積となっている。六本木ヒルズから虎ノ門ヒルズ、そして今回の麻布台ヒルズといったように時代を経るごとに緑化面積が増えている。こうしたことからも、森ビルが業界内で緑化を牽引する存在になることは自然な成り行きだったと言える。
ただ、緑化は森ビルの専売特許ではない。都市開発にも時代を反映するトレンドがあり、現在は各社が緑化を競い合う状況になった。これも時代の要請ということになるだろうか。
トップランナーの森ビルが緑化推進を鮮明に打ち出したのは1986年に竣工したアークヒルズからで、その屋上には約4万本の常緑樹が植樹された。当時の都市開発において、都心部の高層ビルに約4万本の常緑樹を植えるということだけでも常識破りとされた。しかし、森ビル創設者の森泰吉郎は常緑樹だと四季を感じることができないと判断。後に、常緑樹は季節の草花へと植え替えられた。
これは森ビルの緑化が時代とともに進化していることを窺わせるエピソードといえるが、近年の都市開発は単に緑化面積を大きくすればいいという話ではなくなっている。
例えば、芝生でも高木でも、数字上は同じ緑化面積として算出される。しかし、芝生と高木ではその空間はまるで違った印象を人々に与える。単に芝生を植えただけの緑化は、もう通用しなくなっているのだ。
都市開発事業者に求められる緑化は、量を確保するだけのフェーズから質も問われるフェーズへと移行しつつある。都市開発に緑化という視点を取り入れた森ビルは、そうした新しい緑化のフェーズに対しても試行錯誤を繰り返している。