FRBの政策金利の判断材料

 このように「米国雇用統計」は景気動向を把握する意味でも重要ですが、さらに重要なのが米連邦準備理事会(FRB)の政策金利を決める判断材料となるためです。中央銀行が一般の銀行に貸し付ける際の金利である政策金利の上げ下げの判断は、株式はもちろん為替・債券など様々な市場に影響をもたらします。

 例えば、雇用統計と為替相場の基本的な考え方では、雇用者数が増え失業率も改善されると景気が上向きインフレ率が上昇します。そうするとFRBの金融政策でも政策金利を引き上げる方向に動き、その結果相対的にドルが買われる傾向になります。

 ただ実際には、証券会社や通信社が公表している雇用統計の事前予想との乖離(かいり)が為替相場に大きく影響を及ぼします。事前予想との乖離が大きいほど値動きが大きくなります。一方、事前予想の範囲内であれば、値動きは先ほどの基本的な考え方とは逆の方向になる場合もあります。

コロナ禍の米ニューヨーク。2020年6月撮影(写真:写真:AP/アフロ)

 例えば2020年5月に公表された同年4月の「米国雇用統計」では、「失業率」は第2次世界大戦後最悪となる14.7%、「非農業部門雇用者数」も2050万人減と過去最大の減少幅でした。新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウン(都市封鎖)で多くの人が職を失い、景気の悪化が顕著に表れていました。

 基本的な考え方に従えば、ドルが売られる傾向になるはずでした。ところが、事前予想(失業率は16%、非農業部門雇用者数は2150万人減)ほど数値が悪くなかったため、2020年5月8日の外国為替相場では、円でドルを買う動きが優勢となり取引を終えました。