バイオマス発電といえば、コストが高いので、これまでは政府の定めた再生可能エネルギー全量買い取り制度によって推進されてきた。だがここにきて、コストが低く、政府による支援がなくても発電事業ができるのではないか、という技術が登場しつつある。
ソルガムを用いた発電だ。ソルガムは日本名では「高粱」と書いて「たかきび」ないし「こうりゃん」と呼ぶ。サトウキビに似た丈の高い草で、茎は甘く、イネのような穂をつけ、その実は食用になる。穀物として世界中で栽培されており、中国の蒸留酒白酒(バイチュウ)の原料にもなっている。そのソルガムを用いて発電するのだが、ここ数年で重要な技術進歩があった。
(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
日本には膨大な品種改良技術の蓄積がある
これまでのバイオマス発電は、木材のチップや農業廃棄物などを燃料にしていた。だが、石炭などの化石燃料に比べて、いくつか問題があった。大量の原料を安定した価格で継続的に調達することが難しいこと、発熱量が少ないこと、うまく粉砕できないこと、などだった。
これらの問題を解決する技術が次々に開発されている。
まずは生命科学の知見を駆使して品種改良がおこなわれた。
日本では、イネについては品種改良技術の蓄積が膨大にある。ソルガムはイネ科なので、その人材や知見が大いに活用されることになった。東京大学の堤伸浩教授(植物分子遺伝学研究室)、藤原徹教授(植物栄養・肥料学研究室)らのグループが農業試験をしているいわき市(福島県)の農場を訪問し、現物を見ながら研究者の説明を受けた。
品種改良によって、成長は速くなり、収量が増えた。3カ月で6メートルの高さまで成長し、年に複数回作付けできる。栽培場所に適合した品種であれば最大で1ヘクタールあたりで年間200トン以上も収獲できた。木材ならばこれより1桁少なくなるから、驚異的だ。
燃料としての発熱量も増えた。ソルガムはリグニン、セルロース、ヘミセルロース、シリカなどで構成される。このうちリグニンの量を増やすこと(および後述の燃料成型技術)によって、キログラムあたりの発熱量が5200キロカロリーを超えるようになった。火力発電用の石炭の平均値にこそ及ばないものの、それに迫るものだ*1。
*1:このソルガムの発熱量は低位発熱量。日本で発電に用いる輸入一般炭の発熱量は平均で6200キロカロリーである。ただしこれは高位発熱量であり、低位発熱量はこれより5%下がる。