台湾海峡通過の米駆逐艦に中国戦艦が「異常接近」する事態も起きている(写真提供:U.S. Navy/Naval Air Crewman (Helicopter) 1st Class Dalton Cooper/ロイター/アフロ)

エネルギー白書が発表された。台湾有事にはどう備えているだろうか。読んでみて愕然としたのだが、「台湾」という言葉は統計の説明と各国のエネルギー状況を概説する部分の一部に出てくるのみ。「シーレーン」という言葉に至ってはそもそも一度も出てこない。これで大丈夫なのだろうか? 日本の置かれている状況、そして緊急に採るべき対策について考えてみたい。

(杉山大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

中国による台湾の軍事侵攻は「時間の問題」との見方

 6月6日に閣議決定されたエネルギー白書(正式名称:令和4年度エネルギーに関する年次報告 )には、「エネルギーの安定供給」については書いてある。だが過去10年間に発行された白書と大筋では何ら変わるものではない。

 エネルギー供給の多様化を図ること、石油などの備蓄をすること、資源供給国との関係を強化すること、などが書いてある。また、台風や津波などの自然災害への防災の強化についても指摘している。これらはいずれも大事だけれども、日本の事態はもっと切迫している。

 特に、台湾有事のリスクは高まっている。中国の習近平政権は、これまでの慣例を覆して3期目(2023年から2027年まで)に入った。この間に中国が台湾併合に動くとの見方が高まっている。

「ヒゲの隊長」の愛称で知られる佐藤正久・自民党国防会長は、中国の公式文書や人事に基づいて、習近平政権が台湾に軍事侵攻するリスクは極めて高く、する・しないの問題というより、いつするか、という時間の問題だとみている(佐藤氏の著書『中国の侵略に討ち勝つハイブリッド防衛 日本に迫る複合危機勃発のXデー』による)。米国でも同様の見方をする識者が多い。

 キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司氏は、それに加えて、台湾統一は習近平氏自身の最重要な関心事でもあり、また、台湾統一に関しては中国国民の幅広い支持があることを指摘する。