(英フィナンシャル・タイムズ電子版 2023年9月14日付)

Global Southという言葉にはほとんど意味がない

 わずか2語から成る表現が、尊大で事実に照らして不正確で、形容として矛盾し、政治的な二極化の触媒になるとしたら、かなり大したものだ。

 だが、「グローバルサウス」という有害無益な用語はそれをさらりとやってのける。

複雑な世界を単純なブロックに分割

 この表現は植民地が次々と独立した後の議論に、特に米国の活動家カール・オグレズビーがベトナム戦争について書いた論考にルーツがあるようだ。

 だが、近年、所得が比較的少ない国すべてを指す用語に格上げされ、最も貧しい「後発開発途上国(LDC)」から「BRICS」と称される中所得の大国――そこには中国とロシアという、巨大な帝国だった時代の伝統を今も引き継ぐ国も入る――まで網羅した概念になっている。

 さらに言うなら、裕福な国々のクラブである経済協力開発機構(OECD)の一員で、1人当たり国内総生産(GDP)が欧州連合(EU)加盟国のブルガリアと同じくらい高いチリまで含まれている(地理的に言えば、チリはたまたま世界で最も南に位置する国だ)。

 善意に解釈するなら、グローバルサウスとは「中低所得国」を短く言い換えた簡便な言葉にすぎない。

 そのような用語としては、開発経済学者が昔から使っている「途上国」や、世界銀行傘下で民間部門への支援を行う国際金融公社(IFC)が金融資産のマーケティングに使う言葉として編み出した「新興市場」を補完したり、これらに取って代わったりする可能性はあるだろう。

 だがそれでも、このカテゴリー名は明らかな、そしていくぶん滑稽な矛盾をはらんでいる。

 まず、定義上地球の半分を丸ごと無視しているのに「グローバル」だという。