(提供:アフロ)

(廣末登・ノンフィクション作家)

 社会には表があれば裏がある。日本社会でいうと、カタギとやくざの関係もそうだ。これは何も日本独自のものではない。イタリアではンドランゲタ、コーザ・ノストラ、カモッラが裏社会で睨みを効かせ、中国では三合会(=トライアド)が、裏社会の仕切り屋として存在する。良し悪しは別として、それが古今東西の社会の実態である。

 われわれのような合法的な職業社会に生きる者とは異なり、彼らは非合法的な手段を用いて、経済的目標を達成しようと試みる。その手段は、賭博、不良債権回収、管理売春、薬物売買など。いずれも犯罪色の濃いビジネスである。

 筆者は、2003年からやくざや半グレなどの研究を続けてきた関係で、裏社会の変化をこの目で見てきた。おそらく、裏社会の変化をリアルタイムで目にしてきた研究者は、筆者以外にはいないのではないか。

急速に変質する裏社会

 その私はあるときから、日本の裏社会が変質してきていると感じ、たびたび警鐘を鳴らしてきた。変質とは、分かりやすく言うと、様々な集団のメルト化だ。集団が確固たる形を失い、裏社会を構成するさまざま集団を一言で表現できなくなった。

 いわゆる半グレという、既存の暴力団組織の形態とは一線を画し、事務所もなく、メンバーも常に流動的な集団の出現もメルト化の要因のひとつだが、もうひとつ、裏社会に籍を置いた人間が、更生したいと思った時に、なかなか更生し難い社会になってしまっていることも大きな要因となっている。

 現在の社会情勢の下では、意を決してやくざを辞めた人間は、なかなか金融機関で口座を作れない。そのことで就職を断念せざるを得ないことが多い。こうなると、せっかくやくざの世界を離れたのに、再び犯罪に走り、「元暴アウトロー」となって、新たな犯罪被害者を生む恐れがある。

 実際、筆者が就労支援した経験に照らしても、やくざを辞めた人の就労支援は、普通の刑務所出所者の支援に比べて難しい。それは、彼らが生きてきたやくざ社会の文化に染まっていること、口座や携帯の契約ができないこと、彫り物や小指の欠損等々、様々な理由が挙げられる。

 だから筆者は、やくざを辞めた人が、就職に困らないようにまずは銀行口座開設の要件を緩和すべきだと説いてきた。だが、現実はなかなか厳しい。