制作費1億円の効果は「アリ」
1億円使っている効果が『VIVANT』にあるかというと、十分過ぎるほどある。たとえば4話で誤送金の真犯人と分かった憂助の同僚・山本巧(迫田孝也)が公安に尾行されながら大宮駅(さいたま市)構内の人混みを歩いたシーンでそれは表れていた。
よく見ると分かるが、あの人混みは人為的につくられたものだ。だから人の動きが整然としている。転倒事故が起こる可能性などがあるため、本物の人混みの中でのロケは許可が下りないのである。そもそも、本物の人混みでは演出側が意図する映像がつくれない。かなりの費用を投じ、人混みをつくり出したわけだ。低予算のドラマでは真似できない。予算を絞ると、その分リアリティが損なわれる。6話で憂助が公安部に尾行されたシーンも同じだ。
今や各局のライバルは他局だけではない。有料動画配信サービスとも同じ土俵で戦っている。このため、制作費も有料動画配信サービスと同等程度の額が必要なのだが、現実には各局とも制作費を圧縮し続けている。CMの売り上げが伸びていないからである。しかし、制作費を削るばかりでは、確実に先細る。有料動画配信サービスに視聴者を奪われる。
現在のドラマ界の大半は「ゆでがえる理論」に当てはまるのではないか。カエルを熱湯に入れると驚いて飛び出すものの、カエルが入っている水を少しずつ熱していくと、熱湯になるまでカエルは気付かない。結果、茹で上がって死んでしまう。ドラマの視聴率も少しずつ下がっているから、危機感が足りない気がしてならない。
『VIVANT』の大ヒットは意識改革の好機だろう。