ロシア軍の後方部隊に大きな被害を与えている「M109」自走式155ミリ榴弾砲(7月13日リトアニアでのNATO演習で、米陸軍のサイトより)

 6月初旬に開始されたウクライナ軍の攻勢作戦について、「ウクライナ軍の反転攻勢は上手くいっていない。失敗しているのではないか」とネガティブな発言をする人が結構いる。

 ウオール・ストリート・ジャーナル紙も次のように記述している。

「ウクライナが大規模な反攻を開始したとき、西側の軍事関係者は、キエフ(キーウ)がロシア軍を撃退するために必要な訓練や砲弾から戦闘機までの武器をすべて持っていないことを知っていた」

「それでも、彼らはウクライナの勇気と機知に期待した。しかし、ウクライナ軍の大幅な前進はほぼ阻止された」

 筆者はこのようなネガティブな評価は問題であり、もっと反転攻勢の本質を理解した客観的な評価が必要だと思っている。

 7月21日に米国コロラド州で開催された「第14回アスペン安全保障フォーラム」では、ウクライナの反転攻勢が重要なテーマになった。

 多くの参加者から「ウクライナの反攻はまだ始まったばかりで終わっておらず、ロシアが戦争に負けることは避けられない」という趣旨の発言があった。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領自身も「反転攻勢は思ったよりも攻撃速度が遅い」ことは認めているが、攻勢開始以前から「この攻勢作戦は難しいものになる」とも発言している。

 彼はアスペン安全保障フォーラムで、次のように述べている

「ウクライナ軍は春に反攻作戦を開始する計画だったが、地雷除去装置などの兵器や弾薬が不足しており、ウクライナ軍の海外での訓練が継続されていたため、延期せざるを得なかった」

「ウクライナの反攻作戦が遅れたことで、ロシア軍は地雷原を含む複数の防衛線を確立することができた」

 一般的に攻勢作戦における失敗とは、攻撃を行い敵よりも大きな損害を被ったにもかかわらず、攻撃を続けることだ。

 しかし、ウクライナ軍の反転攻勢は違う。

 ザポリージャ州のオリヒウ~トクマク正面における緒戦において、手痛い失敗を犯してしまったが、その後の柔軟な戦術変更により態勢を立て直している。

 ウクライナ軍は兵士の命を大切にし、被害を最小限に抑えながらロシア軍の戦力を削ぐ「阻止作戦(Interdiction Operation)」を重視している。

 つまり、ウクライナ軍は当初の失敗を分析して戦術を変え、攻撃前進を急ぐよりも射程の長い精密なミサイルや砲弾(「ハイマース」のM30・M31ロケット弾、精密誘導砲弾エクスカリバーなど)を使用して、ロシア軍の奥深くに存在する高価値目標(弾薬補給所などの兵站施設、司令部、榴弾砲やロケット砲、予備部隊、電子戦機器)を徹底的に打撃する戦法に切り替えた。

 その効果は明らかに出てきている。

 本稿においては、今後のウクライナ軍の反転攻勢の成功の条件について分析したいと思う。