(舛添 要一:国際政治学者)
エフゲニー・プリゴジンに率いられるロシアの民間軍事会社ワグネルの「反乱」は、わずか1日で終わった。なぜなのか。そして、この事件は、今後のウクライナ戦争の展開、またプーチン政権にどのような影響を与えるのか。
反乱の顛末
6月24日、プリゴジンは、ワグネルがロシア南部ロストフ州で飛行場と軍事施設を支配下に置いたと表明した。プリゴジンは、前日の23日にワグネルの部隊がロシア軍に攻撃されたので報復すると主張していた。そして、24日の未明(日本時間)には、ウクライナの戦場から撤退した2万5000人のワグネルの戦闘員がロストフ州に入ったと投稿し、「邪魔する者は全て排除する」と宣言した。そして、モスクワに向かって進軍を開始したとした。
お昼前には、ゴルベフ・ロストフ州知事が、市民に対して外出しないように呼びかけたために、実際にワグネルがロシア軍に対して反撃に出たということが確認されたのである。
その3時間後の15時頃、ロシア国防省は「ワグネルの戦闘員に訴える」として、「プリゴジンの犯罪と武装反乱に参加しないように」呼びかけた。「多くの同志が既に誤りに気づいて、持ち場に戻りたい」として支援を求めているとした。そして、従順に戻ってくれば、身の安全は保証するとも述べた。
さらに、プリゴジンと親しいセルゲイ・スロヴィキン上級大将(昨年10月にウクライナ特別軍事作戦総司令官に任命、今年の1月に副司令官に降格)は、「ロシア大統領の意思と命令に従え、持ち場に戻れ」とSNSで訴えた。
そして、16時頃、プーチン大統領は緊急にテレビ演説を行い、プリゴジンが反乱を呼びかけた疑いがあるとして、治安当局が捜査に乗り出したとし、ワグネルの行為を「裏切り」だと断言した。そして、祖国を脅威から守るためにロシア軍に対して断固たる措置をとるように指示したと述べた。FSB(ロシア連邦保安庁、KGBの後継組織)は捜査に着手した。
ところが、反乱を開始してから24時間後となる24日夜、ワグネル軍団がモスクワまであと200kmの地点を通過中に、プリゴジンは急遽撤退を決めたのである。プリゴジンは、ロシア人の血が流れることを回避するためだとSNSに投稿した。
その後、クレムリンはプリゴジンがベラルーシに亡命することを容認したが、暫くは消息不明となった。
27日になって、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、仲介の労をとったことを公表し、プリゴジンに対して、進軍を続ければ「虫けらのように潰されるだろう」と述べ、身の安全を保証するようにプーチンに依頼したという。こうして説得されたプリゴジンは、今はベラルーシに逃亡している。