- 海外の最新テック企業は、日本のOMO(Online Merges with Offline)を凌駕した「スーパーOMO」を実現している。
- 無数に広がるオンラインとオフラインのタッチポイント、そして完全に統一した顧客IDの下でのパーソナライゼーションが生み出す新たな顧客価値。それがスーパーOMOの特徴である。
- 本稿では、「ECの巨人」アマゾンと「小売業界の巨人」ウォルマートを基に小売業界の最前線で起きている変化を描く。
(*)本稿は『GAFAも学ぶ!最先端のテック企業はいま何をしているのか 世界を変える「とがった会社」の常識外れな成長戦略』(東洋経済新報社)の一部を抜粋・再編集したものです。
(成嶋 祐介:一般社団法人深圳市越境EC協会日本支部代表理事)
「OMO(Online Merges with Offline)」。特に小売業界でマーケティングに携わっている方なら、この言葉を聞いたことがない方はいないでしょう。
直訳すると「オンラインとオフラインの融合」ですが、人によって「融合」のとらえ方はさまざまで、具体的にどう融合し、どんな顧客体験をもたらすのか、わかりにくいところがあります。本題に入る前に、いま一度確認しておきましょう。
OMOという言葉は、2017年に元グーグルチャイナのCEOで、現在はシノベーションベンチャーズ(*1)を率いる李開復(リ・カイフ)氏が提唱した言葉です。同年12月の『エコノミスト』誌に発表されたことで世界中に広まりました。
李氏によると、OMOとは「消費者は常時オンラインに接続され、オンラインとオフラインの境界があいまいになり、両者が融合していく」というコンセプトを指します。
それまでのO2O(Online to Offline)(*2)がオンラインからオフラインへの一方通行の送客を表しているのに対し、OMOではもはやオンラインとオフラインの境界があいまいになり、双方を行き来しながら新しい消費体験を生み出すという意味を持っています。
*1:シノベーションベンチャーズ
元グーグルチャイナCEOの李開復(リ・カイフ)が2009年に創業したベンチャーキャピタル
*2:O2O(Online to Offline)
ウェブサイト、インターネット広告、SNSなど(オンライン)から、実店舗(オフライン)へと送客するマーケティング施策
たんなる販売促進ではなくカスタマーエクスペリエンス(CX)に重心が置かれているのがポイントです。
とりわけ食品、アパレルなどリアル店舗を持つ小売業界においては、OMOによる新しい顧客体験をいかに生み出すかが、デジタル時代のマーケティング施策における重要課題となっています。
その一例として、オンラインでの接客、飲食店でのモバイルオーダー、ECとリアル店舗の在庫管理の一元化といった施策が一部の企業で実施されています。
ただ、多くの日本企業におけるOMO施策は自社内で完結しており、オンラインは自社ECサイトもしくは専用のスマートフォンアプリ、オフラインは自社店舗と、タッチポイント(*3)は限定されている印象があります。アプリで買うか、店舗で買うかの二択しかないイメージです。
「当たり前じゃないか。それ以外に何があるんだ?」と思われるかもしれません。しかし、海外の最新テック企業にとって、そんな「当たり前」はもはや「当たり前」ではありません。日本のOMOを凌駕する、いわばスーパーOMOを実現しているのです。
*3:タッチポイント
マーケティング用語で「顧客と企業との接点」のこと
スーパーOMOと日本のOMOの大きく異なる点は、主に2つあります。ひとつはオンライン・オフライン双方における「タッチポイント」の数です。