2023年3月25日、世界選手権、男子シングルで優勝を決めた宇野昌磨とコーチのステファン・ランビエール(左)と、トレーナーの出水慎一(右) 写真=長田洋平/アフロスポーツ
(取材・文:松原 孝臣 撮影:積 紫乃)
昌磨の演技が好きだから
出水慎一は、2017-2018シーズン、宮原知子に加え、宇野昌磨のサポートも担うようになった。その翌シーズンからは宇野のみとなり、今日に至るまで宇野をサポートする。その中では、数々の場面に直面し、折々の宇野の姿をみつめてきた。
2018-2019シーズン、世界選手権を前に宇野は「結果を求めたい」と語った。従来の姿勢からすると異なる趣があった。その背景を出水は語る。
「2019年の四大陸選手権のときのことです。あのとき、靴が合わなかったり捻挫もしたりしていて、決していい状態ではなく、ショートプログラムは5位で終わりました」
オリンピックでメダルを獲ったあと、フェイドアウトしていく選手は少なくない。でも昌磨の演技が好きだから、もっと見ていたい、もっと続けてほしい。いつか世界大会で金メダルも獲ってほしい——。そんな思いが巡った。
「ショートが終わってケアしながら『昌磨のスタイルでやり切っていつか金メダルを獲れたらいいんじゃない? 』って言ったんですね。昌磨は自分が金メダルを獲ることで他の人が喜んでくれるんだと感じて、四大陸選手権ですごい頑張って優勝しました。そういう経緯があって、世界選手権のとき、『獲りに行きます』と発言をしたんです」
周囲を喜ばせたい一心での発言であったのだ。