- 原油価格は石油輸出国機構(OPEC)プラスの努力もむなしく70ドル割れが続く。
- 人口爆発が起きているサウジアラビアは、原油収入で巨大な未来都市を建設し大量の雇用を創出する計画を描いていたが、暗雲が漂う。
- サウジは経済安定化のためイランとの外交関係を正常化。孤立深めるイスラエルが「暴走」する懸念もあり、中東リスクが高まっている。
米WTI原油先物価格は6月12日、一時1バレル=66.8ドルとなり、5月上旬以来の安値を付けた。その後も70ドル割れが続いている。OPECとロシアなどの大産油国で構成するOPECプラスは6月4日、原油価格を下支えするために新たな措置を発表したが、その努力もむなしく終わってしまった格好だ。
強気の見通しを示していた米ゴールドマン・サックスも今年末の原油価格の予測を1バレル=89ドルから81ドルに下方修正している。
市場では「原油市場のファンダメンタルズ(基礎的条件)が変わってしまった」との嘆き節が聞こえてくる。
その最大の要因は中国だ。関係者の間でコンセンサスとなっていた「ゼロコロナ政策を解除した中国が今年の世界の原油需要をけん引する」とのシナリオに狂いが生じている。中国の5月の原油輸入量は前月比132万バレル増の日量1211万バレルと好調だったが、全体の輸出(ドル建て)が前年比7.5%減少したため「中国の景気回復は順調ではなく、今後原油需要の伸びが停滞する」との見方が広がっている。
中国経済の屋台骨である不動産業は相変わらず低迷しており、若年層を中心に雇用情勢も極端に悪化していることから、「中国の原油需要のV字回復は見込めない」との見方は強まるばかりだ。
こうした中、予想外の原油安に最も頭を悩ませているのが、「7月から日量100万バレルの追加減産を行う」ことを表明したサウジアラビアだろう。サウジのアブドラアジズ・エネルギー相は5月下旬、原油価格の下落で利益を得る「空売り」を仕掛ける投機筋に警告を発していたが、空振りに終わってしまった。
産油国にとって原油価格の低迷は死活問題だ。特にサウジは深刻な課題を抱えている。同国で起きている人口爆発である。