20年も以前に訴訟で性被害が認定されていながら、これだけ問題が大きくなるまで、どうして日本の新聞やテレビはこの問題を報じてこなかったのか。芸能界は性被害の実態になぜ、正面から向き合ってこなかったのか。そこに報道機関が見て見ぬふりをしてきた忖度があったのではないか。

 ならば、私がかつて民放キー局に出入りして働きながら、そこで見たことを披露しよう。

「じゃ、やらないということで」

 あれは平日の昼頃のことだった。翌日発売の写真週刊誌の早刷りを手にした男性がやって来て、午後のワイドショーのチーフ・プロデューサーに声をかけた。

「これ、今日の番組でやらないよね」

 そう言って、写真週刊誌を広げて見せる。そこにはジャニーズ事務所に所属するアイドルグループのメンバーが、海外旅行をしている姿が写っていた。同伴者の女性には目線が入っている。

 いつもは号令けたたましいチーフ・プロデューサーの態度がいきなり仰々しくなったので、それが“偉い人”であることは側から見ていてもすぐにわかった。それも「制作」と呼ばれるドラマやバラエティー番組の制作部門の人間であったことは、あとになって知った。

「あ、いや、どうかな…」

 しどろもどろにチーフ・プロデューサーは、その日の曜日担当のチーフ・ディレクターを呼んだ。ワイドショーのように毎日放送される帯番組では、曜日ごとに担当スタッフが班分けされていて、チーフ・ディレクターがその日の放送を差配する。放送内容はプロデューサーが知らないはずはないが、あえて担当を呼んで説明させる。

「これは、芸能デスクから上がってきていないので、いまのところ予定はありませんが…」

 写真週刊誌を見た曜日担当が言った。すると今度は、芸能担当のデスクが呼ばれる。