4.AI搭載航空機の開発状況
近年の自動操縦技術・航法技術・センサー技術等の発達や搭乗員の生命にかかわる危険性がないなどの人間が搭乗しないことから得られる特徴から、無人航空機がより積極的に導入され、その結果戦場の無人化が着実に進んでいる。
さて、AIの将来像を考える際、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉が使われる。
シンギュラリティとは、「AIが人類の知能を超える転換点」と解釈されている。
人工知能の世界的権威であるレイ・カーツワイル博士は、2005年の著書『ポスト・ヒューマン誕生:コンピューターが人類の知性を超えるとき』の中で、西暦2045年にはAIの知能が人類の知能よりも高くなると予想している。
そして、シンギュラリティは「2045年問題」とも呼ばれている。
AIが今のスピードで発展し続けると、2045年に限らず、シンギュラリティは間違いなく起こるであろう。
『戦場のシンギュラリティ(Battlefield Singularity:Artificial Intelligence, Military Revolution, and China’s Future Military Power)』の著者であるエルサ・B・カニア氏は、次のように予見している。
「その段階になると、AIを導入した戦闘が必要とするスピーディな決断に人間はついていけなくなるかもしれない」
「軍は人間を戦場から引き上げ始め、むしろ監視役に据え、無人システムに戦闘の大半を遂行させるかもしれない」
現在、各国は、群知能の考え方をドローン群に適用したドローンの群衆飛行や有人機を支援する「ロボット僚機(またはロイヤルウイングマン)」の開発などにAIの軍事利用を進めている。
それらの開発状況は次のとおりである。
(1)ドローンの群衆飛行能力の開発状況
米国、中国、ロシアなど各国が「ドローンの群衆飛行(スウォーム飛行)」能力の開発にしのぎを削っているといわれている。
米国と中国については以下のような開発状況が公開されている。他の国については不明である。
・2016年10月、米国は飛行中の3機の「F/A-18」スーパーホーネットから放出された103機の全長約16センチの超小型ドローン「Perdix(パーディクス)」の編隊飛行の実験に成功した。
・2016年11月、中国はコプター型ドローン67機の群衆飛行に成功した。
・2017年6月、中国は固定翼型ドローン119機(機種は不明)の群衆飛行に成功した。
複数機の固定翼ドローンを同時に制御・操作する行為は、コプター型ドローンと違って全機の速度・距離を一定に保つのが難しく、相当な技術力を要すると言われる。
(2)「ロボット僚機」の開発状況
現在、先進各国は、2030年から2035年の実用化を目指して次世代戦闘機/第6世代戦闘機の開発を競っている。
先進各国は、次世代戦闘機と協働し、有人戦闘機を支援する「ロボット僚機」の研究開発に取り組んでいる。
「ロボット僚機」が促進される理由としては、
①有人戦闘機との役割分担でパイロットの負担を減らすことができる、
②「ロボット僚機」の機能を空中給油や電子戦などの機能に限定すれば格闘戦などの戦闘よりは単純な動きになるので技術面、経費面で開発が容易となるなどが考えられる。
次に各国の「ロボット僚機」の開発状況を述べる。最後の2項目は、本稿に関連する無人戦闘機(UCAV)の開発状況である。
・2019年2月27日、ボーイング社は、豪空軍と共同開発している無人実証機「ロイヤル・ウイングマン(Loyal Wingman)」の実大模型を公開した。
ボーイング社は、「ロイヤル・ウイングマン」をATS (Airpower Teaming System)またはBATS(Boeing ATS)と呼んでいる。
・2019年3月5日に、「XQ-58A」ヴァルキリーは、アリゾナ州のユマ試験場で初飛行に成功した。
XQ-58Aヴァルキリーは、米国の次世代戦闘機(NGAD)と協同する「ロボット僚機」として機能するよう設計されている。
・2019年9月、ロシア国防省は、開発中のステルス無人攻撃機「スホーイS-70オホートニク-B」が、「Su-57」ステルス戦闘機と飛行する動画を公開した。
・2020年5月5日、ボーイングオーストラリア社は、豪空軍から3機受注していた「ロイヤル・ウイングマン」の1号機をロールアウトした。
同機は、全長が11.7メートル、航続距離は3700キロ以上。AIを活用し、ほかの有人機や無人機と連携しながら情報収集・警戒監視・偵察・電子戦などの任務を遂行する。
・2020年12月、XQ-58Aヴァルキリーは、「F-22」ラプター、F-35ライトニングIIとの編隊飛行に成功した。
・2021年2月、豪空軍とボーイングが開発する無人機「ロイヤル・ウイングマン」のプロトタイプが初飛行に成功した。
・2021年5月5日、米空軍は、無人機開発プログラムにおいて、「頭脳」にあたる自律性コアシステム(ACS:autonomy core systems)を搭載した無人攻撃機「UTAP-22」が試験飛行に成功したと発表した。
・2021年6月、米空軍は、自立飛行システム(ACS)を搭載した無人攻撃機(MQ-20 )の試験飛行に成功したと発表した。
自立飛行システム(ACS)を搭載した無人機としてはUTAP-22に次いで2機種目である。
・2021年6月、ロシアのイタルタス通信は、Su-57が4機の無人ステルス機S70 オホートニク-Bを運用できるようにすると報じた。
Su-57Mは各種無人機とのチーミングを可能にするAIシステムを搭載する。
・2022年11月3日、AIを搭載したXQ-58Aヴァルキリーは、無線リンクを切断し、着陸地点に自律的に帰還する自律飛行に成功した。
・2023年3月6日、サウスチャイナ・モーニング・ポスト (SCMP) は、AIが操縦する航空機と人間が操縦する航空機同士の実際のドッグファイトにおいてAIが操縦する航空機が勝利したとの論文を2023年2月に中国航空学会誌に発表したと報じた。
・2023年3月27日、米国防高等研究計画局(DARPA)は2022年12月にエドワーズ空軍基地で、AIが操縦する戦闘機の試験飛行を成功させと発表した。