(立花 志音:在韓ライター)
「お母さん、オマカセって本当はどういう意味なの?」
「本当も何も、相手に任せることでしょう。そこに自分の意志はないわね」
尹大統領の訪日がきっかけで、我が家もそろってオムライスを食べた土曜日の夜のことである。高校生の息子はスマホを見たまま、筆者に話しかけてきた。
「オマカセ料理って高いの? 肉なの?」
今、韓国では「オマカセ」と名乗る、不思議な高級料理が大流行している。2年ほど前からSNSで目につくことが増え、筆者も観察していた。
初めは高級日本料理店の高価格帯メニューの呼び方だったのだが、日本風の鉄板焼きのようなお店が肉メニューにその呼び方を導入して以来、完全に元来の意味は失われた。
最近は高級コース料理のようなものの総称となっていると理解していいだろう。基準は店主がそう呼ばせるか呼ばせないか、ただそれだけである。
「だめだね。自分は、食べたいものを食べたい。オマカセデキマセンネ」
いつの間にか、夫が会話に入って来た。だんだん日本語と韓国語が混ざった会話になってきた。そのうち、自分が日本語を話しているのか、韓国語を話しているのか、誰もわからなくなってくる。
「韓国のオマカセはメニューがあるんだって。自分で選べるからお父さんでも大丈夫だよ。でも、そんなんなら寿司ビュッフェがいいなぁ。お腹いっぱい食べられて安上がりだしね」
どこでそんな情報を仕入れて来たのか、息子は得意げに夫に説明しながらも、ちゃっかりと自分の要求を言い残して部屋に戻って行った。
「あいつは寿司ビュッフェが、今いくらか知ってて、言ってるのか? 時代も変わったもんだな」
夫が子供の頃、特別な日はジャジャン麺と呼ばれる韓国風ジャージャー麺を食べるのが定番だった。そして、夫が高校を卒業する頃のトレンドはとんかつ定食だったという。
まだ韓国が、日本に追いつけ追い越せで必死になっていた時代のことである。