「私が拘束されていた? 誰かから虐待されていた? いつそんなのを見たんだ」

「(ハリマトは)タチンにいた頃は学校での成績も良く賢かったのに、日本にいる間に何があったんだ」

 こう訴えかけるイェルケンさんの顔は怒っているように見える。終始落ち着きがなく、椅子を揺らしながらカメラに向かって話しているが、たまに重たげな表情で下を向く姿が印象的だ。

 番組は、イェルケンさんがハリマトさんに向かってこう呼びかける場面で終了する。

「君は中華人民共和国の国民だ。わが国家に感謝すべきだ」

「君が国家のために何かすることはできないだろうが、ばかげたことを言ってわれわれの国を中傷してはならない」

 しかめ面で話すイェルケンさんの本当の怒りの矛先が、ハリマトさんではなく、中国当局であったことは言うまでもない。

 こうした「台詞」が強制的に言わされているというのは明らかだったため、少なくとも家族が無事であることが確認できただけでもハリマトさんにとっては喜ばしいことだった。自分がウイグル問題について証言することで、かえって家族の命を守ることができるのではないか。そう感じ、今後の活動への希望も持てたという。

奪われるウイグル人のアイデンティティ

 ハリマトさんはこの3月上旬に新店舗をオープンする予定だ。国営放送で兄や妹の姿を見て以来、彼らの安否は確認できていない。ハリマトさんの妻の家族や親族3人も収容所に入れられていたことが分かっており、いずれも解放されたと聞かされたものの、その後どこにいるのか、今果たして無事なのかは明らかになっていない。

 今この瞬間にも拘束され拷問を受けているかもしれない、けれど自分が表に出ることで家族を助けられるかもしれない――そんな葛藤を抱えたまま、明るい店主として日々を過ごしている。

「考えてみてほしい。自分の家族や愛する人、友人たちが捕まって虐殺されたりしたら、ただ謝られただけで許せるだろうか。(収容所には)200万もの人が収容されていると言われるが、その人たちの家族を含めると、この問題で苦しむ人は何千万に上る。現地の家族が一番辛いのは当然だが、外にいるわれわれも非常に苦しい」

 ハリマトさんは真剣な表情でそう問いかけると、こう語気を強めた。

「国民への拷問や強制不妊手術などは犯罪行為なのだから国際裁判にかけるべきだ」

「もともと私は(ウイグル族の)独立派ではなかったが、政府が国民を虐待している状況を見ると、政府がウイグル人を国民とみなしているとは思えない。独立か、あるいは共産党の退陣しか問題解決の道はないように思う」

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